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懲戒について(1)

2019/11/08 11:00|カテゴリー:解雇

複数回にわたって懲戒をテーマとした記事を掲載していきたいと思います。

 

1 根拠規定の必要性

労働者を懲戒するには、あらかじめ労働協約、就業規則、個別の労働契約等において懲戒の対象となる事由及び懲戒の種別を定めておく必要があります。一般的には懲戒の対象となる事由及び懲戒の種別については、就業規則に定めることが多いと思いますが、就業規則に懲戒事由等を定める場合には、就業規則の内容を労働者に周知しておく必要があります。「周知」とは、労働者が就業規則の内容を知ろうと思えば知ることができる状態におくことをいいます。周知の方法として、労働基準法等には、①事業場内の見やすい場所に掲示、備付けをする、②労働者に書面で交付する、③パソコン等で労働者がデータを確認できる状態にしておくとの方法が定められていますが、これらの方法に限られるわけではありません。

 

2 手続規定

懲戒の対象となる事由及び懲戒の種別のほかに、懲戒委員会等を開催して労働者の弁明や関係者の意見等を聴取した上で懲戒処分を決定するなどの懲戒をするにあたっての手続規定を定める場合があります。手続規定を就業規則等に定めている場合には、その手続を経ずになされた懲戒処分については、無効とされる可能性が高いので注意が必要です。

上記のような手続規定が就業規則等に何ら定められていない場合であっても、最低限、労働者に弁明する機会は与えておくべきです。裁判例の判断は分かれてはいるものの、労働者に弁明の機会を与えなかったことを理由として懲戒処分を無効と判断している裁判例もあるからです。

 

3 有効要件

労働契約法15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定めています。この規定は、それまでの判例等を踏まえて条文化されたものですが、懲戒の有効要件として、客観的合理性及び相当性が認められることを要求しています。この懲戒の有効要件については、懲戒の対象となる行為の性質や態様、当該労働者の過去の勤務歴、処分歴や同種の行為に対する過去の懲戒処分との均衡等、様々な事情を考慮して判断されることとなります。

人間関係を良好にすることこそが最大の紛争未然防止策

2019/11/08 10:42|カテゴリー:ハラスメント

労働分野の勉強の一環で読みました裁判例(東京地裁平成27年(ワ)第36800号地位確認等請求事件)についてご紹介したいと思います。

 

X(女性)は学術専門書籍の出版・販売等を業とするY社に勤務しておりました。

Xは第2子を出産するために産前産後休暇をとり,出産後は育児休暇を取っておりました。

XはY社に復職を申し入れたところ,Y社より海外の子会社へ転籍するか従前より待遇が劣る別の職種へ移るしかない説明され,退職を勧奨されました。

Yはこれを受け入れず,東京労働局長に調停を申立てたところ,調停員会からはXの原職復帰を求める調停案がだされました。しかし,Y社はこの調停案を受諾しなかったため調停不成立となり,調停での解決はできませんでした。

その後,Y社はXに対し,協調性が不十分で改善の見込みがないことなどを理由として解雇する旨通知をしました。

そこで,XはY社に対し,解雇無効を主張して労働契約上の地位確認の訴えと精神的苦痛を被ったとして慰謝料請求訴訟を提起しました。

なお,Y社内において,Xの能力はチームワークの項目以外はすべて最高評価がつけられておりました。

労働契約法16条には「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効となる。」と規定されております。

また,雇用機会均等法9条3項では妊娠や出産等を理由とする不利益扱いを禁止されており,育児介護休業法10条では育児休業をしたことを理由とする不利益扱いを禁止しております。

裁判所は詳細な事実認定のもと,Xに対する解雇は,男女雇用機会均等法9条3項及び育児休業法10条に違反し,客観的に合理的理由を欠いており,社会通念上相当であるとは認められないから労働契約法16条に基づき無効と判断しました。

 

判旨に現われているXとY社の主張を見ますと同じ事実についてXとY社の認識の齟齬,Xにとっては十分な対応と思っていたがY社にとって不十分であったり,Xにとっては不十分であるがそれにはやむを得ない事情があるにも関わらずそこについてY社と情報共有ができていなかったり。

コミュニケーションが取れていれば解消できたのではないかと思われるものばかりです。

では,どうしたらコミュニケーションが取れるのでしょうか。ここで行き着くのが人間関係です。

では,人間関係はどうしたら良くなるでしょうか。Y社としてはXに指摘するばかりでなくY社の方でも改善できる点はなかったのでしょうか。

 

会社は組織である以上,多種多様な考え方をもった人が集まります。そこで,人間関係の問題は必ず起きます。そこでの対処次第で会社は能力ある人に取って活躍の場となるし,他方で訴訟まで行くほどの対立関係になります。

 

人間関係を良好にすることこそが最大の紛争未然防止策です。今一度,家族,従業員,同僚,友人などの自分にとって大切な人との関わり方を振り返ってみましょう。

なお,人間関係を良好にするには選択理論心理学が有効と考えております。選択理論心理学につきましては別の機会に紹介したいと思います。

パワーハラスメント

2019/11/08 10:41|カテゴリー:ハラスメント

パワハラとは何でしょうか。法律上の定義がある訳ではありませんが,平成30年3月30日付で公表された「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」では,パワハラの概念として,

⓵優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること

②業務の適正な範囲を超えて行われること

③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること,又は就業環境を害すること

を挙げて,①~③を満たすものを職場のパワハラと定義づけています。

 

上記報告では,下記のとおりパワハラの典型的な類型とともに,上記①~③を満たす場合を挙げています。

a 暴行・傷害(身体的な攻撃)

:上司が部下に対して,殴打・足蹴りをする

b 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)

:上司が部下に対して,人格を否定するような発言をする

c 隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)

:自身の意に沿わない社員に対して,仕事を外し,長期間にわたり,別室に隔離したり,自宅研修させたりする

d 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害(過大な要求)

:上司が部下に対して,長期間にわたる肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる

e 業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

:上司が管理職である部下を退職させるため,誰でも遂行可能な業務を行わせる

f 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

:思想・信条を理由とし,集団で同僚一人に対して,職場内外で継続的に監視したり,他の社員に接触しないよう働きかけたりする

 

パワハラが許されないことは言うまでもありません。しかし,パワハラの加害者は,純粋に被害者を苦しめたくて行っているのでしょうか。「私は正しい。部下は間違っている。自分も厳しく鍛えられてきた。厳しく鍛えないといけない。できない部下は辞めてもらうしかない。」などの自分の正しさの押し付けがパワハラの根源にあるのではないでしょうか。

正しさは人それぞれであって,押し付けると短期的には結果が出るかもしれませんが,長期的には部下との人間関係を破壊し,離職やパワハラを生む結果となります。

「部下とどういう関係を築きたいか,部下にどうなって欲しいか,そのためにはどう関わるのが効果的か」

上司のあり方,忍耐力や指導力が試されている時代だと思うのです。