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労務・労働問題~管理職に残業代は出ない?管理監督者の要件と名ばかり管理職のリスク(建設業の現場所長の注意点つき)~

2026/09/30 08:45|カテゴリー:労務・労働問題、建設業

こんにちは。弁護士法人Si-Lawです。

「課長に昇進したから、もう残業代は出さなくていい」「現場所長は管理職だから残業代の対象外」――建設業の経営者の方から、こうしたご相談をよくいただきます。

結論から申し上げると、管理職という肩書だけでは、残業代の支払い義務はなくなりません。残業代が不要になるのは、労働基準法41条2号の「管理監督者」に当たる場合だけです。そして管理監督者かどうかは、役職名ではなく、権限・働き方・待遇の実態で判断されます。

さらに、管理監督者に当たる場合でも、深夜割増賃金(午後10時〜午前5時)は支払う必要があるほか、会社には労働時間を把握する義務も残ります。この記事では、管理職の残業をめぐるルールを、建設業の現場所長・現場監督の場面に引き寄せて、熊本・八代で中小企業の顧問をしている弁護士の視点から解説します。

建設現場で弁護士が社長と現場所長に管理職の残業について助言するイメージ

管理職に残業代は出ない?「管理職」と「管理監督者」の違い

「管理職」は会社が決める肩書にすぎない

課長・部長・所長・工事主任といった「管理職」は、会社が社内の組織運営のために付ける呼び名です。法律に定義があるわけではありません。

そのため、会社が「今日から課長」と辞令を出しても、それだけで法律上の扱いが変わることはありません。ここを混同したまま運用している会社が、中小企業では少なくないのが実情です。

残業代が不要になるのは労基法41条2号の「管理監督者」だけ

労働基準法41条2号は、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)について、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用しないと定めています。

つまり、管理監督者に当たれば、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いても時間外割増賃金は発生せず、休日労働の割増賃金も発生しません。逆にいえば、管理監督者に当たらない管理職には、一般社員と同じように残業代が必要です。

「名ばかり管理職」とは

管理職の肩書はあるものの、管理監督者の要件を満たしていない人を、一般に「名ばかり管理職」と呼びます。ファストフード店の店長について管理監督者性を否定し、残業代の支払いを命じた日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日判決)をきっかけに広く知られるようになりました。

名ばかり管理職と判断されると、会社は過去にさかのぼって残業代を支払うことになります。「管理職だから払わない」という運用は、会社にとって大きな潜在的債務になり得るのです。

項目 管理職(社内の肩書) 管理監督者(労基法41条2号)
決め方 会社が自由に決める 実態から客観的に判断
時間外・休日の割増賃金 必要 不要
深夜割増賃金 必要 必要
年次有給休暇 あり あり
時間外労働の上限規制・36協定 対象 対象外
労働時間の把握義務 あり あり(労働安全衛生法)

管理監督者と認められる3つの要件

行政通達や裁判例では、管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされ、おおむね次の3つの観点から判断されています。

管理監督者と認められる3つの要件の図解

①経営に関与し、人事・労務の権限を持っているか

会社の経営方針の決定に関わっているか、部下の採用・配置・人事評価・労働時間の管理について実質的な権限を持っているか、が見られます。

  • 採用や解雇について意見を言うだけで、決定は社長がしている
  • 部下のシフトや残業を決めるには本社の了承が必要
  • 経営会議に出ていない、または出ても発言権がない

このような実態であれば、管理監督者性は否定される方向に働きます。

②出退勤の時間を自分で決められるか

管理監督者は、時間に縛られずに経営上の判断に応じて働くことが前提とされています。そのため、始業・終業時刻が決められていて、遅刻・早退で賃金が差し引かれるような働き方であれば、管理監督者とはいいにくくなります。

また、人手不足で自分も現場作業やシフトの穴埋めに入らざるを得ず、実際には労働時間の裁量がほとんどない、というケースも否定方向の事情です。

③地位にふさわしい賃金・待遇があるか

残業代が出ない代わりに、それに見合う待遇を受けているかも重要です。役職手当が月数万円程度で、残業代が出ている部下と給与の差がほとんどない、あるいは逆転しているような場合は、管理監督者性が否定されやすくなります。

裁判例では、年収が数百万円台後半の課長・支店長・店長などについても、権限や働き方の実態から管理監督者性が否定され、1,000万円を超える支払いが命じられた例があります。給料が高ければ大丈夫、というわけではない点に注意が必要です。

裁判所の判断は厳しい

実務上、裁判で会社側の「管理監督者だった」という主張が認められるケースは多くありません。中小企業で管理監督者として扱ってよいのは、実質的に役員に近い立場の、ごく限られた人と考えておくのが安全です。

建設業の現場所長・現場監督は管理監督者に当たるか

「現場の責任者」と「労務管理の権限」は別物

建設業では、工事現場の所長や現場代理人、主任技術者・監理技術者といった立場の方が「管理職」として扱われていることが多くあります。

しかし、主任技術者・監理技術者は建設業法上、工事の施工の技術上の管理をつかさどる立場です。現場代理人も、請負契約の履行について現場を運営・取り締まる立場であり、いずれも会社の人事・労務について経営者と一体の立場にあることを意味するわけではありません。現場で職人や協力会社に指示を出していても、それだけで管理監督者になるわけではないのです。

否定されやすい典型パターン

  • 朝礼の時刻に合わせて毎日早朝から現場に入り、終業後に事務所で書類作成をしている
  • 工程・予算・人員配置は本社の工事部長や社長が決めている
  • 部下の採用・評価・昇給に決定権がない
  • 所長手当が月2〜5万円程度で、残業代のある若手と年収がほぼ同じ
  • 人が足りない日は自分も重機に乗ったり、資材を運んだりしている

こうした実態がそろっていると、所長という肩書があっても管理監督者とは認められにくいでしょう。

現場監督は「時間外労働が長くなりやすい」職種

施工管理の仕事は、日中の現場対応に加えて、施工計画書・写真整理・安全書類・発注者との打合せなど、事務作業が夜や休日にずれ込みがちです。そのため、管理監督者と認められなかった場合の未払い残業代は、他の職種より高額になりやすい傾向があります。

管理監督者でも必要なこと:深夜割増・有給休暇・労働時間の把握

深夜割増賃金(午後10時〜午前5時)は支払い義務がある

労基法41条で適用が外れるのは「労働時間・休憩・休日」の規定であり、深夜業の規定は外れません。最高裁(ことぶき事件・平成21年12月18日判決)も、管理監督者にも深夜割増賃金の請求権があることを認めています。

夜間工事や、発注者の都合による深夜の切り替え工事がある建設業では、管理監督者として扱っている所長にも、深夜時間帯の25%割増分を支払う必要があります。ただし、役職手当などに深夜割増分が含まれていることが明らかな場合には、その範囲で支払い済みと扱われることもあります。

年次有給休暇も一般社員と同じ

管理監督者にも年次有給休暇は付与されます。年10日以上付与される人には、年5日の取得をさせる義務(労基法39条7項)も適用されます。「所長は休めないのが当たり前」という運用は見直しが必要です。

労働時間の把握と医師の面接指導

労働安全衛生法66条の8の3により、会社は管理監督者を含むすべての労働者の労働時間の状況を、タイムカードやパソコンの使用記録などの客観的な方法で把握しなければなりません。

時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる人から申出があれば、医師による面接指導を行う必要があります。長時間労働による過労死や健康被害が起きた場合、管理監督者だからといって会社の安全配慮義務が軽くなるわけではありません。

管理職の残業時間に上限はある?建設業の上限規制

2024年4月から建設業にも上限規制が適用

建設業は長く時間外労働の上限規制が猶予されていましたが、2024年4月から原則として適用されています。管理監督者に当たらない管理職(名ばかり管理職を含む)は、この上限規制の対象です。

区分 上限
原則(36協定) 月45時間・年360時間
特別条項を結んだ場合 年720時間以内/月45時間超は年6回まで
時間外+休日労働 単月100時間未満/2〜6か月平均80時間以内
災害時の復旧・復興事業 上の「単月100時間未満・平均80時間以内」は適用除外(年720時間等は適用)

「管理職にすれば上限規制を外せる」は危険

上限規制への対応に困り、現場所長を一斉に「管理職」扱いにして時間管理の対象から外す、という発想は危険です。実態が伴わなければ、上限規制違反(罰則あり)と未払い残業代の両方を抱えることになります。

熊本の復旧・復興工事と長時間労働

熊本では、地震や豪雨の災害復旧工事が集中する時期があります。災害復旧・復興事業には一部の上限の例外がありますが、年720時間の上限や、会社の安全配慮義務は残ります。繁忙期こそ、現場所長の労働時間を記録し、交代要員や工程の調整を早めに検討することが大切です。

名ばかり管理職と判断されたときの会社のリスク

未払い残業代は最大3年分さかのぼる

賃金請求権の消滅時効は、2020年4月1日以降に支払日が来る賃金について、当分の間3年とされています。退職した元所長から、3年分まとめて請求されるのが典型的な流れです。

単純な試算をしてみます(あくまでイメージです)。

前提・計算 金額
月給40万円・月の所定労働時間160時間 1時間あたり2,500円
時間外割増(25%) 1時間あたり3,125円
月40時間の残業 月12万5,000円
3年分(36か月) 約450万円

これに加え、月60時間を超える部分は割増率50%(中小企業も2023年4月から)となり、休日労働は35%です。複数の所長から同時に請求されれば、会社の資金繰りに影響するほどの金額になりかねません。

付加金・遅延損害金

裁判になると、未払い額と同額までの「付加金」の支払いを命じられることがあります(労基法114条)。また、退職した労働者の未払い賃金には、退職日の翌日から年14.6%の遅延損害金がかかります(賃金の支払の確保等に関する法律6条)。

労基署の調査と社内への波及

労働基準監督署の調査で是正勧告を受け、過去分の支払いを求められることもあります。1人の請求が認められると、同じ立場の所長や課長にも同じ問題が広がるため、早い段階で全体の見直しをすることが重要です。

会社がとるべき対策:管理職の残業代の見直し手順

ステップ1:管理職の実態を棚卸しする

まず、残業代を払っていない管理職を全員リストアップし、1人ずつ「権限」「出退勤の裁量」「待遇」を確認します。職務分掌や決裁権限規程に書いてあることと、実際の運用が一致しているかも見てください。

ステップ2:管理監督者として扱う人を絞り込む

実態として管理監督者と言える人だけを残し、それ以外の人は残業代の支払い対象に戻すのが基本です。建設業の中小企業であれば、取締役を兼ねる工事部長など、ごく一部に限られることが多いでしょう。

ステップ3:賃金制度を整える(固定残業代の注意点)

残業代の対象に戻すと人件費が増えるため、役職手当の一部を固定残業代として位置づける方法が検討されます。ただし、固定残業代が有効とされるには、次の点が必要とされています。

  • 通常の賃金部分と割増賃金部分とが明確に区別できること
  • その手当が時間外労働の対価として支払われていること(契約書・賃金規程・説明の内容から判断)
  • 実際の残業代が固定額を超えたら、差額を支払うこと

また、既存の役職手当を固定残業代に振り替えることは、労働条件の不利益変更に当たる場合があります。個別の同意を得るか、就業規則変更の合理性(労働契約法9条・10条)を慎重に検討する必要があります。固定残業代の設計についてはIT企業の固定残業代と長時間労働対策でも詳しく解説しています。

ステップ4:労働時間の記録と36協定の見直し

現場所長の労働時間を、勤怠アプリや入退場記録などで客観的に記録する仕組みを作ります。記録がないと、請求を受けたときに会社側が反論する材料もありません。あわせて、残業代の対象に戻した人を36協定の対象に含め、上限規制に収まるよう工程・人員配置を見直します。

請求を受けてしまったら

元社員から内容証明で請求が届いた場合、放置は禁物です。タイムカード・日報・メール履歴などから実労働時間を確認し、管理監督者性についての会社の主張が成り立つかを冷静に見極めたうえで、交渉・労働審判・訴訟のどこで決着させるかを判断します。早い段階で弁護士に相談するほど、選択肢は広がります。

熊本・八代の建設会社が管理職の残業で相談すべきタイミング

地方の中小建設会社に多い事情

八代・熊本の建設会社では、社長と少数の所長で現場を回し、所長は「会社の右腕」として長年働いてきた、という形が少なくありません。信頼関係があるうちは問題が表面化しませんが、退職・独立・世代交代のタイミングで、一気に残業代の請求として表に出ることがあります。

事業承継や会社の売却を検討する際にも、名ばかり管理職の問題は「簿外債務」として買い手の調査(デューデリジェンス)で指摘されやすい論点です。

相談をおすすめするタイミング

  • 社員を課長・所長に昇進させるとき(残業代を外す前に)
  • 就業規則・賃金規程を見直すとき
  • 管理職の退職が決まったとき、退職者から連絡が来たとき
  • 労働基準監督署から調査の連絡があったとき
  • 事業承継・M&Aを検討し始めたとき

社員トラブル全般については製造業の労務管理と社員トラブル対応、店長の残業代については飲食店の労務管理とアルバイト・店長の残業代対策もあわせてご覧ください。また、日頃から相談できる体制づくりについては顧問弁護士の費用相場とメリットで解説しています。

管理職の残業に関するよくある質問

Q.管理職本人が「残業代はいらない」と言っていれば問題ありませんか?

A.いいえ。労働基準法で定められた割増賃金は、本人の同意があっても放棄させることはできないのが原則です。退職後に請求されることもあるため、同意書があっても安心はできません。

Q.役職手当を払っていれば残業代の代わりになりますか?

A.役職手当が時間外労働の対価であることが明確で、通常の賃金と区別されていれば、固定残業代として扱える可能性があります。ただ、単に「役職手当」とだけ定めている場合は、残業代の支払いとは認められないことが多いです。

Q.管理監督者の休日出勤に割増賃金は必要ですか?

A.管理監督者には休日に関する規定が適用されないため、休日労働の割増賃金(35%)は不要です。ただし、深夜時間帯に働けば深夜割増は必要です。

Q.課長を管理監督者から外すと、給料を下げてもいいですか?

A.一方的な賃金の引き下げは不利益変更の問題があり、慎重な対応が必要です。残業代を含めた総額でどう設計するか、本人との合意をどう得るかを、事前に検討することをおすすめします。

まとめ

  • 管理職の肩書だけでは残業代は不要にならない。不要になるのは労基法41条2号の「管理監督者」だけ
  • 管理監督者かどうかは「経営・労務の権限」「出退勤の裁量」「ふさわしい待遇」の実態で判断され、裁判所の判断は厳しい
  • 建設業の現場所長・現場監督は、現場の責任者であっても管理監督者と認められにくい
  • 管理監督者でも深夜割増・有給休暇・労働時間の把握は必要
  • 名ばかり管理職と判断されると、最大3年分の残業代に付加金・遅延損害金が加わることもある
  • 実態の棚卸し→対象者の絞り込み→賃金制度と労働時間管理の整備、の順で見直す
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事情に応じた判断は専門家へのご相談をおすすめします。企業法務でお悩みの際は、弁護士法人Si-Law(八代市)へお気軽にご相談ください。