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労務・労働問題~パワハラは訴えたもん勝ち?訴えた人負け?会社側の対応手順と慰謝料相場(建設業の現場指導の注意点つき)~

2026/09/28 15:00|カテゴリー:労務・労働問題、建設業

こんにちは。弁護士法人Si-Lawです。

「パワハラは訴えたもん勝ち」という言葉を、ネットや職場の雑談で耳にすることがあります。経営者や管理職の方から「部下を注意しただけでパワハラだと言われた。訴えられたら会社は負けるのか」というご相談も増えています。

結論から申し上げると、パワハラは「訴えたもん勝ち」ではありません。パワハラに当たるかどうかは、法律が定める3つの要件と証拠で判断されます。業務上必要な指導であれば、厳しい口調が含まれていても違法とされないケースは多くあります。

一方で、会社が申告を放置したり、事実確認をせずに済ませたりすると、指導そのものは正当でも「会社の対応が不十分だった」として責任を問われることがあります。つまり、勝ち負けを分けるのは、申告を受けた後の会社の動き方です。

この記事では、「訴えたもん勝ち」「訴えた人負け」と言われる理由、パワハラの判断基準、慰謝料相場、会社がとるべき対応の手順を、熊本・八代の中小企業の顧問弁護士の視点で解説します。怒声が飛びやすい建設業の現場指導の注意点もあわせてご紹介します。

建設会社の社長と現場監督に弁護士がパワハラ申告への対応を説明するイメージ

パワハラは本当に「訴えたもん勝ち」なのか

「訴えたもん勝ち」と言われる3つの理由

このような言葉が広まった背景には、次のような事情があります。

  • 申告があれば会社は調査しなければならない:パワハラ防止措置は法律上の義務なので、申告を受けた会社は、真偽にかかわらず相談対応と事実確認をする必要があります。
  • 「受け手がどう感じたか」が注目されやすい:「傷ついた」と言われると、それだけでパワハラが成立するように誤解されがちです。
  • 会社の評判への影響を恐れて早めに示談する例がある:SNSや口コミでの拡散を恐れ、会社が事実関係を詰めないまま金銭で解決すると、周囲から「言ったもん勝ち」に見えます。

実際は「証拠と3要件」で決まる

裁判や労働審判でパワハラが認められるには、訴える側が、どのような言動があったのかを証拠で示す必要があります。録音やメール、同僚の証言などがなければ、言動そのものが認定されないこともあります。

また、言動が認定されても、それが「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」ものでなければ、違法とはされません。実際、長時間の叱責であっても、業務上の必要に基づく指導の範囲内だったとして請求が退けられた裁判例もあります。

「訴えた人負け」と言われる側面もある

反対に、「パワハラは訴えた人負け」という言葉もあります。訴える側には、次のような負担があるからです。

  • 訴訟になれば解決まで1年以上かかることも珍しくない
  • 弁護士費用に比べ、認められる慰謝料が数十万円程度にとどまることがある
  • 証拠が足りず、請求が認められない場合がある
  • 職場に居づらくなり、結果的に退職を選ぶ人も多い

会社としては、「どちらが勝つか」ではなく、申告を受けた時点から法律に沿って淡々と対応し、紛争を大きくしないことが最善の防御になります。

パワハラの定義と判断基準(3要件・6類型)

法律上の3要件

いわゆるパワハラ防止法(労働施策総合推進法)と厚生労働省の指針では、職場のパワハラを次の3つをすべて満たすものと定めています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動:上司から部下だけでなく、専門知識を持つ同僚や、集団による部下からの言動も含まれます。
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの:業務と関係がない、または手段・回数・時間が社会通念上行き過ぎている言動です。
  3. 労働者の就業環境が害されるもの:平均的な労働者が「働くうえで看過できない支障が生じた」と感じるかどうかで判断します。

ポイントは、③が「本人がどう感じたか」ではなく「平均的な労働者の感じ方」を基準にしている点です。受け手が不快に感じただけで直ちにパワハラになるわけではありません。

代表的な6つの類型

類型 該当しやすい例 該当しにくい例
身体的な攻撃 殴る、ヘルメットをたたく、物を投げる 誤ってぶつかる
精神的な攻撃 人格を否定する暴言、皆の前で長時間どなる ルール違反を繰り返す者に一定程度強く注意する
人間関係からの切り離し 意に沿わない社員を仕事から外し、無視する 新人を短期間集中的に別室で研修する
過大な要求 必要な教育をせず、到底できない作業を命じる 育成のため少し高いレベルの業務を任せる
過小な要求 嫌がらせで草むしりだけをさせる 能力に応じて業務量を一時的に減らす
個の侵害 私生活や病歴を本人の了解なく暴露する 配慮のため家族の状況を聞き取る

「指導」と「パワハラ」の境界線

正当な指導かパワハラかは、次の視点で総合的に判断されます。

  • 指導の目的は業務改善か、感情的な怒りや嫌悪か
  • 指摘の内容は具体的な行動か、人格や能力全体の否定か
  • 時間・回数・場所は相当か(大勢の前で長時間、何度も、になっていないか)
  • 本人の落ち度の程度や、繰り返し注意しても改善しない事情があるか

「何度言ったら分かるんだ、この作業手順の3番を飛ばしている」は行動への指摘ですが、「お前は使えない、辞めてしまえ」は人格の否定です。同じ場面でも言葉の選び方で評価が大きく変わります。

パワハラで訴えられたら会社はどんな責任を負うか

会社が問われる法的責任

パワハラが認められた場合、責任を負うのは行為者本人だけではありません。会社は主に次の2つの根拠で損害賠償を請求されます。

  • 使用者責任(民法715条):従業員が仕事に関連して他人に損害を与えた場合の会社の責任
  • 安全配慮義務・職場環境配慮義務違反(労働契約法5条など):働きやすい職場環境を整える義務を怠った責任

特に後者は、行為者の言動が違法とまでいえなくても、「申告を受けたのに調査しなかった」「被害を訴えた社員を放置した」という会社の対応そのものが問題とされる点に注意が必要です。

慰謝料の相場

パワハラの慰謝料は、言動の内容・期間・心身への影響によって大きく変わります。あくまで目安ですが、裁判例の傾向は次のとおりです。

ケース 慰謝料の目安
暴言が一時的・単発で、心身の不調がない 数万円〜50万円程度
暴言・嫌がらせが継続し、通院や休職に至った 50万円〜100万円程度
うつ病などで長期休職・退職に至った 100万円〜数百万円(休業損害・逸失利益は別)
自殺などの重大な結果が生じた 数千万円に及ぶこともある

慰謝料そのものは数十万円程度でも、休業中の賃金相当額や弁護士費用、労災認定に伴う対応などが加わると、会社の負担は膨らみます。

労災・行政指導・刑事責任

パワハラが原因で精神疾患を発症した場合、労災と認定されることがあります。精神障害の労災認定の基準には、パワハラが心理的負荷を評価する項目として明記されています。

また、パワハラ防止措置を講じていない会社は、労働局から助言・指導・勧告を受けることがあり、勧告に従わない場合は企業名が公表される可能性もあります。殴るなどの暴力があれば、行為者は暴行罪・傷害罪などの刑事責任を問われることもあります。

パワハラの申告を受けた会社の対応手順

ここからは、社員から「パワハラを受けた」と申告があったときの具体的な流れです。手順を踏んでいれば、仮に後で訴えられても「会社は適切に対応した」と主張しやすくなります。

パワハラの申告を受けた会社の対応手順6ステップ(安全確保、証拠保全、聞き取り、事実認定、処分、再発防止)

ステップ1:申告者の安全確保と受付記録

まず、申告者の話を否定せずに聞き、いつ・どこで・誰から・何を言われたかを記録します。心身の不調がある場合は、行為者と顔を合わせないよう、一時的な配置換えや在宅での業務なども検討します。

この段階で「そのくらい我慢しろ」「あの人も悪気はない」と言ってしまうと、それ自体が二次被害として問題になります。

ステップ2:証拠の保全

メールやLINE、業務日報、現場の作業記録、録音データなど、客観的な資料を早めに確保します。時間がたつと、メッセージの削除や記憶の食い違いが起こりやすくなります。

ステップ3:関係者への聞き取り

申告者、行為者とされた社員、その場にいた同僚の順に聞き取りを行います。聞き取りでは次の点に注意してください。

  • 可能であれば2名で対応し、1名は記録係にする
  • 行為者とされた社員にも弁明の機会を十分に与える(最初から加害者扱いしない)
  • 聞き取った内容と、相談したことを口外しないよう伝える
  • 申告者が聞き取りを希望しない範囲は、どこまで調べてよいか本人と相談する

ステップ4〜6:事実認定・処分・再発防止

集めた証拠と聞き取り結果から、どの言動が事実として認められるかを確定し、3要件にあてはめます。パワハラに当たると判断すれば、就業規則に基づき、注意・けん責・減給・出勤停止などの処分を検討します。

処分は、言動の重さとの釣り合いが必要です(労働契約法15条)。1回の暴言でいきなり懲戒解雇にすると、今度は行為者から処分の無効を争われるおそれがあります。

調査の結果パワハラに当たらないと判断した場合でも、申告者には結論と理由を丁寧に伝え、コミュニケーションの改善策(上司の交代、面談の同席者を付けるなど)を示すことが、紛争を大きくしないコツです。

会社がやってはいけない対応

申告者への不利益な扱い

パワハラの相談をしたことや、調査に協力したことを理由に、解雇・降格・配置転換などの不利益な扱いをすることは法律で禁止されています。「騒ぎを起こした」として評価を下げることも同様です。

放置・もみ消し・当事者同士での解決

「本人同士で話し合って」と当事者に任せたり、行為者が個人的に謝罪金を渡したりするのは避けてください。後から「会社は何もしなかった」と主張される原因になります。

結論ありきの調査

社長と行為者が親しい、行為者が現場の稼ぎ頭である、といった理由で結論を先に決めた調査は、裁判になれば必ず見抜かれます。外部の弁護士に聞き取りや判断を依頼すると、中立性を示しやすくなります。

いわれのないパワハラの訴えへの反論のポイント

指導の必要性と経緯を示す

正当な指導だった場合は、「なぜ注意が必要だったのか」を具体的に説明できることが大切です。ミスや規律違反の内容、それまでに何回注意したか、改善の機会を与えたかを、日報や指導記録で示します。

日頃の「指導記録」が最大の証拠

訴えられてから記憶をたどるのでは遅く、反論の力も弱くなります。日頃から次のような記録を残しておくと、いざというときに会社と管理職を守ります。

  • 注意・指導をした日時、場所、内容(言った言葉をそのまま)
  • 対象となったミスや違反の内容と、業務への影響
  • 本人の反応と、その後の改善状況
  • 面談を行った場合は同席者と面談メモ

労働審判・訴訟になった場合

従業員側は、労働局のあっせん・調停、労働審判、訴訟などで請求してきます。労働審判は原則3回以内の期日で結論を目指す手続なので、第1回期日までに会社側の主張と証拠を出しきる必要があります。申立書が届いたら、すぐに弁護士へご相談ください。

なお、損害賠償を請求できる期間には時効があります(不法行為の場合、原則として損害と加害者を知った時から3年。人の生命・身体を害する場合は5年)。退職から時間がたってから請求されることもあるため、指導記録や調査資料は一定期間保管しておきましょう。

建設業の現場指導で注意したいパワハラの境界線

安全のための強い注意は「必要な指導」になり得る

建設業の現場では、足場や重機の周りで危険な行動をとった作業員に、とっさに大きな声で注意しなければならない場面があります。命に関わる危険を止めるための一時的な強い注意は、業務上の必要性が高く、それだけでパワハラとされる可能性は低いと考えられます。

問題になるのは、その後です。危険が去った後も皆の前でどなり続ける、「だからお前はダメなんだ」と人格を否定する、ヘルメットをたたく、といった言動は、安全指導の範囲を超えてしまいます。

「昔はこれが当たり前だった」が通用しない理由

職人の世界では「見て覚えろ」「怒られて一人前」という育て方が長く続いてきました。しかし、若手の入職が減り人手不足が深刻な今、厳しすぎる指導は離職を招き、SNSでの発信や労働局への相談につながりやすくなっています。

熊本県内でも、震災からの復旧・復興工事や大型の工場建設が続き、現場は繁忙です。忙しい時期ほど言葉が荒くなりがちなので、次のような工夫をおすすめしています。

  • 危険行動への注意は「その場で短く」、振り返りは「後で個別に落ち着いて」と分ける
  • 朝礼やKY活動で、安全ルールと注意の仕方をあらかじめ共有しておく
  • 職長・現場監督向けに年1回はハラスメント研修を行う
  • 下請業者の作業員や一人親方への言動にも同じ基準で配慮する

元請・下請が入り混じる現場の相談体制

建設現場では、元請の現場監督から下請の作業員への言動が問題になることもあります。自社の社員でなくても、取引先の労働者から相談があった場合には、必要に応じて事実確認に協力することが望ましいとされています。協力会社との間で、相談があった場合の連絡窓口を決めておくと安心です。

中小企業が今日からできるパワハラ予防策

法律で義務づけられている措置

パワハラ防止措置は、2022年4月から中小企業にも義務化されています。会社規模にかかわらず、少なくとも次の措置が必要です。

  • パワハラを行ってはならないという方針を明確にし、社員に周知する
  • 行為者への処分を就業規則などに定める
  • 相談窓口を設け、適切に対応できる体制を整える
  • 申告があった場合に、迅速かつ正確に事実確認をする
  • 相談者・行為者のプライバシーを守り、相談を理由とする不利益な扱いをしないことを周知する

また、顧客や取引先からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)についても、事業主に対策を求める法改正が行われています。社内のパワハラ対策とあわせて見直しておくと効率的です。

社内に相談しにくい小規模企業こそ外部窓口を

社員数が数十名以下の会社では、「相談窓口が社長本人」「人事担当が行為者の親族」ということも少なくありません。これでは社員は相談できず、いきなり外部の労働組合や弁護士に駆け込むことになります。

顧問弁護士を外部相談窓口として指定すれば、社員は安心して相談でき、会社は早い段階で問題を把握できます。小さな火種のうちに対応できるのが最大のメリットです。

関連する労務トラブルもあわせて確認を

パワハラの問題は、残業代や無断欠勤、退職トラブルなど、ほかの労務問題と一緒に起きることがよくあります。次の記事もあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. 部下が「録音していた」と言っています。無断録音でも証拠になりますか。

A. 職場での会話を本人が無断で録音したものでも、裁判で証拠として扱われることが一般的です。録音されていることを前提に、日頃から言葉づかいに気をつけることが大切です。

Q. パワハラと言われた管理職を、すぐに降格させるべきですか。

A. 事実確認の前に処分を決めるのは避けてください。調査中は、申告者と接触しないよう一時的に配置を変える程度にとどめ、事実が確定してから就業規則に沿って処分を判断します。

Q. 申告者が調査をせず「黙っていてほしい」と言う場合は。

A. 本人の意向は尊重しつつ、放置はできません。本人が特定されない形での職場全体への注意喚起や研修など、できる範囲の対応を相談しながら進めます。

まとめ

  • パワハラは「訴えたもん勝ち」ではなく、3要件と証拠で判断される
  • 業務上必要な指導は、厳しい口調でも違法とされないことがある
  • ただし、申告の放置や不十分な調査は、会社自身の責任につながる
  • 慰謝料は数十万円程度が多いが、休職・退職に至ると負担は大きくなる
  • 申告を受けたら「安全確保→証拠保全→聞き取り→事実認定→処分→再発防止」の順で対応する
  • 建設業では、危険を止める短い注意と、後の振り返りを分けることが有効
  • 日頃の指導記録と外部相談窓口が、会社と管理職を守る
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事情に応じた判断は専門家へのご相談をおすすめします。企業法務でお悩みの際は、弁護士法人Si-Law(八代市)へお気軽にご相談ください。