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懲戒について(2)

2020/02/04 09:50|カテゴリー:解雇

1 懲戒解雇と解雇予告手当

労働者を解雇するには,30日前までに解雇を予告するか,30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項本文)。ただし,「…労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」については,上記解雇予告または解雇予告手当の支払をしなくてもよいとされており(労働基準法第20条第1項但し書),懲戒解雇をする場合は,上記「…労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に該当するとして,30日前の解雇予告も解雇予告手当の支払をしないということも可能です。

もっとも,解雇予告も解雇予告手当の支払もせずに解雇する場合には,事前に労働基準監督署長による認定(「除外認定」といいます。)を受けなければならないこととされています(労働基準表第20条第1項ただし書,同条第3項,同第19条第2項)。この除外認定を受けるには,ある程度の時間(1~2週間程度)を要します。裁判例上,除外認定を受けずに,解雇予告や解雇予告手当の支払もしないまま解雇をしたとしても,解雇が無効となるわけではないとされていますが,労働基準法の定める手続に違反することになりますので,実務上は,懲戒解雇の場合にも解雇予告手当を支払うことが多いです。

 

2 懲戒解雇と退職金

就業規則に,懲戒解雇の場合には退職金を支給しない(あるいは減額する)などと規定をする場合があります。このような規定を根拠に懲戒解雇をする場合に退職金を不支給または減額とすることが可能でしょうか。

退職金については,一般的に,賃金の後払的性格及び勤続に対する功労報償的な性格を有するものとされています。そのような観点から,裁判例上,就業規則に上記のような退職金の不支給または減額についての定めがある場合であっても,労働者のそれまでの功績を抹消(不支給の場合)または減少(減額の場合)させるほどの重大な背信行為がなければ,退職金の不支給または減額は無効となるものとされています。

退職金の不支給または減額の有効性については,背信行為の性質,当該背信行為による会社業務への影響の程度,労働者のそれまでの勤務実績,過去の処分との比較等の様々な事情を考慮して判断されることとなりますが,裁判において,退職金の全額不支給が有効とされることはあまりなく,一定割合の退職金の支払を命じられることが多いです。

したがいまして,就業規則に懲戒解雇の場合には退職金を支給しない(あるいは減額する)といった規定がある場合であっても,退職金の取扱いについては慎重に判断する必要があります。

未払賃金立替払制度について

2020/02/04 09:47|カテゴリー:未分類

今回は「未払賃金立替払制度」について説明致します。

未払賃金立替払制度とは,賃金の支払の確保等に関する法律第7条に基づき,企業が破産したために,賃金が支払われないまま退職した従業員に対して,その未払賃金の一定の範囲について労働者健康福祉機構が事業主に代わって支払う制度です。

仮に未払賃金立替払制度がなかった場合,給与については企業の資産の売却等によりお金に換え,一定の資産を形成できた場合に始めて,法律に従って配当という手続きにより支払いを受けられることになります。

しかし,企業が破産する場合,企業には資産がないことがほとんどです。また,企業に一定の資産があったとしても,未納の税金や社会保険料の支払に優先的に充てられます。そのため,配当によって給与の支払を受けられるのは極めて稀であります。

加えて,裁判所に破産申立をして配当までは数ヶ月,破産する企業の規模や状況次第で1年以上かかる可能性もあります。

給与は生活していく上で必要不可欠であります。給与は毎月決まった日に支払を受けられないと住宅ローンや家賃,水道光熱費等の支払いができず日常生活に大きな影響を及ぼします。

このように,給与の未払は他の債権の未払(例えば,銀行への借入金の返済の滞りなど)と大きく異なるため,企業が破産した場合,未払の給与については一定の範囲で労働者健康福祉機構が立替えてくれる制度が未払賃金立替払制度であります。

 

次に,未払賃金立替払制度で立替えて貰える給料の範囲について説明致します。

対象となるのは,破産申立ての日から6か月前の日以降の給与です。すなわち,破産申立の日の7か月前の給与については未払賃金立替払制度の立替えの対象にはなりません。

また,立替えの対象となるのは毎月の給与や退職手当です。賞与や解雇予告手当については対象となりません。

さらに,立替払いを受けられる金額は「未払賃金の総額」の100分の80です。ただし,立替払いを受けられる金額には年齢に応じて限度額が設けられております(30歳未満は88万円,30歳以上45歳未満は176万円,45歳以上は296万円)。

 

破産はない方が良いですが,破産せざるを得ない場合に会社に尽くして下さった従業員の不利益を最小限に抑えることも経営者として重要な責務の一つと思われます。

破産を検討せざるを得ない場合にはなるべく早期に弁護士に相談しましょう。

同一労働同一賃金②

2020/02/04 09:46|カテゴリー:働き方改革

1 前回のおさらい

前回の私の記事では,「同一労働同一賃金」といっても,正社員と非正規社員が単に同じ労働作業をしているからといって同じ賃金になるというものではなく,責任の範囲,配置転換の有無,職能職位に連動した給与体系等の違いがあるのであれば,その違いに応じた賃金格差は認めるというのが現在の労働法制の基本的な考え方となっていることをお話しました。裏を返せば,正社員と非正規社員の違いから合理的に説明できない賃金格差であれば,違法となるということになります。

 

2 重要判例のご紹介

ここで,正社員と非正規社員との間の賃金格差が争われた近年の重要判例「ハマキョウレックス事件(最高裁平成30年6月1日判決)」をご紹介したいと思います。

この判例は,ともにトラック運転手である正社員と非正規社員(有期労働者)との間で,「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「住宅手当」「皆勤手当」「通勤手当」といった手当が正社員にのみ支給されていることが違法な賃金格差にあたるとして,非正規社員が訴訟を提起した事件です。

最高裁は,上記手当のうち「住宅手当」のみ適法な賃金格差であるとし,その他の手当は違法な賃金格差にあたると判断しました。違法な賃金格差にあたると判断された「無事故手当(無事故なら支給)」「作業手当(特定の作業をしたら支給)」「皆勤手当(皆勤なら支給)」「通勤手当(通勤のため支給)」は,いずれも,正社員であろうと非正規社員であろうと,その手当の条件がそろえば等しく支給されるべきという判断です。例えば「無事故手当」について言えば,無事故を条件に支給されるのなら,正社員の方が責任の範囲が広いとか,正社員だけに配置転換が予定されているとか,正社員にのみ職位職能制度があるといった違いとは無関係で,正社員でも非正規社員でも無事故であれば等しく支払われるべきという趣旨の判断です。

他方で,適法な賃金格差と判断された「住宅手当」については,正社員には転居を伴う配置転換が予定され,住居費が多額になり得ることから,正社員にのみ支給することも不合理ではないと判例は述べています。つまり,正社員と非正規社員との違いから合理的に説明できるとして適法と判断されています。

 

3 さいごに

上記判例は,あくまで対象会社の実態を認定した上で個別具体的な判断をしたものです。「無事故手当」「住宅手当」といった名称の手当であれば必ず違法・適法になると判断したものではありませんので,詳しくはご相談ください。