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労務・労働問題~試用期間中の能力不足による解雇はできる?会社側の進め方と退職勧奨の注意点(IT企業・熊本・八代)~

2026/10/05 12:23|カテゴリー:IT企業、労務・労働問題

こんにちは。弁護士法人Si-Lawです。

結論からお伝えします。試用期間中であっても、能力不足を理由とする解雇は、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がなければ無効になります。試用期間は「解雇しやすい期間」ではありません。ただし、期待した能力が明らかに足りず、指導や配置の見直しを尽くしても改善しない場合には、解雇が認められる余地があります。大切なのは、解雇の前に「何を期待し、どう指導し、どう記録したか」を会社が説明できる状態にしておくことです。

この記事では、熊本・八代の中小企業の経営者・人事ご担当者の方に向けて、試用期間中・試用期間後の「能力不足」による解雇・退職勧奨の判断基準、進め方、予告手当などの手続き、してはいけない対応を、IT企業・サービス業でよくある場面を交えて解説します。

弁護士が経営者と人事担当者に試用期間中の能力不足への対応を助言する様子

※本記事は、会社(事業主)側の立場から、労働契約法・労働基準法の一般的な考え方を整理したものです(最終更新:2026年10月5日)。

能力不足による解雇とは?まず押さえる3つの前提

解雇には「客観的合理性」と「社会的相当性」が必要

労働契約法16条は、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効とすると定めています。能力不足による解雇も、この規定の対象です。「成績が悪い」「仕事が遅い」という会社の主観的な評価だけでは足りず、具体的な事実と、会社が尽くした対応が問われます。

試用期間は「解約権留保付きの労働契約」

試用期間中の労働者との間でも、すでに労働契約は成立しています。判例(三菱樹脂事件・最高裁昭和48年12月12日大法廷判決)は、試用期間を「解約権を留保した労働契約」と位置づけています。つまり、本採用後より広い範囲で解雇が認められる余地はあるものの、客観的に合理的で社会通念上相当な理由がなければ、留保した解約権も行使できません。

「能力不足」は大きく3つに分けて考える

  • 未経験・新卒採用の育成前提:多少の能力不足では解雇しにくく、会社の指導・教育が重く見られます。
  • 中途・経験者の即戦力採用:期待した職務水準に達しない場合、新卒より解雇が認められやすくなります。
  • 高度専門職・職務限定の採用:契約内容で職務や求める水準が明確なほど、能力不足の判断がしやすくなります。

試用期間中の解雇はどこまで認められる?

「14日以内」は解雇予告が不要、ただし解雇自体の制限は同じ

労働基準法20条は、解雇の場合に30日前の予告(または30日分以上の平均賃金=解雇予告手当の支払い)を求めています。一方、同法21条は、雇い入れから14日以内の試用期間中の労働者は、この予告規定の対象外としています。注意したいのは、これは「予告手続きが不要」というだけで、解雇の理由が必要なことに変わりはない点です。14日を超えて雇用した場合は、通常どおり予告または予告手当が必要になります。

試用期間の延長・本採用拒否のポイント

試用期間は、就業規則や雇用契約書に定めがなければ、一方的に延長できません。延長する場合も、延長の根拠が規定され、期間が合理的な範囲に収まっている必要があります。また、本採用拒否は法的には解雇にあたるため、同じ基準で判断されます。

区分 予告・予告手当 理由の必要性
雇入れから14日以内 不要(労基法21条) 必要(労契法16条)
14日超(試用期間中) 原則30日前の予告または手当(労基法20条) 必要(労契法16条)
本採用後 原則30日前の予告または手当(労基法20条) 必要(労契法16条)。より厳格に判断されやすい

能力不足で解雇が有効と判断されやすい条件・無効になりやすい条件

有効と判断されやすい要素

  • 採用時に求める役割・水準が、募集要項や雇用契約書で明確になっている
  • 期待水準と実際の成果のギャップが、数字や具体的な事実で説明できる
  • 上司が繰り返し指導・面談を行い、改善の機会を与えた記録がある
  • 配置転換や担当業務の見直しなど、解雇を避ける努力をした
  • 改善されない状態が相当期間続いている

無効と判断されやすい要素

  • 「期待に沿わない」「やる気が見えない」など抽象的な理由しかない
  • 指導や研修がほとんど行われていない(特に未経験者・新卒)
  • 他の従業員も同程度の成績なのに、その人だけを対象にしている
  • 就業規則に解雇事由の定めがない、またはその事由に当てはまらない
  • 一度の失敗やミスだけで直ちに解雇した

特に、中小企業では「忙しくて教育の時間が取れなかった」まま、後から能力不足を理由にするケースが目立ちます。裁判所は、会社がどのような教育・指導を実際に行ったかを重く見ます。

能力不足で解雇する前の流れ(期待水準の明示・指導・記録・配置転換・退職勧奨または解雇)

解雇の前にやるべき5つのステップ

ステップ1:期待する水準を、書面で本人に伝える

「このポジションで、3か月後までにここまでできてほしい」という目標を具体的に示します。口頭だけでなく、面談シートやメールなど、後から確認できる形で残してください。

ステップ2:指導・教育の機会を実際に与える

OJT担当者の指名、マニュアルの整備、定期面談など、会社としてできる教育を行います。IT企業であれば、コードレビューの実施記録や1on1の議事メモが、そのまま客観的な資料になります。

ステップ3:問題点と改善状況を記録する

指導した日時、内容、本人の反応、改善の有無を、事実ベースで記録します。感情的な表現や人格への評価は避け、「何を、いつまでに、どの程度」といった客観的な記述を心がけてください。

ステップ4:配置転換や職務の見直しを検討する

当初の職種に向かなくても、別の部署や業務なら力を発揮できる可能性があります。職務を限定した採用でない限り、解雇前に配置転換を検討したかどうかが、相当性の判断で問われます。

ステップ5:退職勧奨か解雇かを選ぶ

解雇は、後から無効を主張されるリスクがあります。そこで多くの会社は、まず話し合いによる退職(退職勧奨)を検討します。次の章で詳しく説明します。

退職勧奨と解雇の違い、してはいけない対応

退職勧奨は「合意退職」を目指す話し合い

退職勧奨は、会社が退職を「お願い」し、本人が自由な意思で応じれば成立する合意退職です。応じるかどうかは本人が決めるため、解雇のような「有効・無効」の争いが生じにくい方法です。ただし、退職を強要したり、長時間・多人数で繰り返し迫ったりすると、違法な退職強要として損害賠償や退職の取消しが争われるおそれがあります。

退職勧奨 解雇
法的性格 合意による退職 会社の一方的な契約解除
本人の同意 必要 不要
主なリスク 強要と評価されると違法・無効 解雇権の濫用で無効、解雇後の賃金の支払い(バックペイ)
事前の予告 不要(合意で決める) 原則30日前の予告または手当

やってはいけない対応

  • その場で「明日から来なくていい」と口頭で告げる
  • 指導の記録を後から作り込む
  • 退職届を書くまで面談室から出さない
  • 「懲戒解雇になる」と事実に反して脅す
  • 業務上のけがや病気で休業中、産前産後の休業中に解雇する(労基法19条の解雇制限)

解雇理由証明書の請求にも備える

労働基準法22条により、労働者から請求があれば、会社は解雇の理由を記載した証明書を遅滞なく交付しなければなりません。この書面は、後の紛争で重要な証拠になるため、記載する理由は事前に弁護士と確認しておくと安心です。

就業規則・雇用契約書で必ず整えておきたいこと

解雇事由は、就業規則の絶対的必要記載事項です(労基法89条)。能力不足に関しては、次の点を確認しておきましょう。

  • 試用期間の長さ(一般に3〜6か月が多い)と、延長できる場合の規定
  • 解雇事由の中に「勤務成績・業務能力が著しく不良で、改善の見込みがないとき」など具体的な定めがあるか
  • 職務限定採用の場合は、雇用契約書・募集要項に職務内容と求める水準が書かれているか
  • 評価制度・面談制度があり、運用の記録が残っているか

「就業規則は作ったが、実態と合っていない」という会社は少なくありません。トラブルが起きてから整備しても遅いため、採用の前にご確認ください。

熊本・八代の中小企業が気をつけたい実務

人材の採用が難しい地域では、「せっかく採用したのだから」と、能力不足でも我慢して雇い続け、他の従業員に負担が偏って職場が疲弊する、というご相談が少なくありません。一方で、採用難ゆえに十分な指導をしないまま、短期間で解雇してしまい、紛争になるケースもあります。

労働者が解雇を争う場合、熊本労働局の総合労働相談コーナーでの相談・あっせんや、裁判所の労働審判(原則3回以内の期日で、数か月での解決を目指す手続き)が利用されることがあります。いずれの場面でも、会社がどのような指導を行い、どのように記録したかが、結論を大きく左右します。

中小企業の顧問弁護士として多くのご相談を受ける中で、問題が大きくなる前の「面談の進め方」「指導記録の残し方」「退職勧奨の文面」の段階でご相談いただく方が、結果的に会社の負担もリスクも小さく済む、と実感しています。

「能力不足」に見えて、実は別の問題かもしれない場面

能力不足として処理する前に、次のような背景がないかを確認してください。原因を見誤ったまま解雇すると、別の法的問題を招くことがあります。

病気・メンタル不調が原因の場合

ミスの増加や遅刻が、うつ病などの体調不良によるものであれば、能力不足ではなく「休職・配置の配慮」の問題になります。医師の診断や産業医の意見を確認し、就業規則の休職制度を踏まえて対応する必要があります。業務上の疾病であれば、療養のための休業中とその後30日間は解雇が制限されます(労基法19条)。

職場の人間関係やハラスメントが背景にある場合

上司の指導が過度で、本人が萎縮して成果を出せていないケースもあります。指導のあり方が問題視されると、会社が逆に責任を問われかねません。会社側の対応手順は、当事務所の解説記事「パワハラは訴えたもん勝ち?訴えた人負け?会社側の対応手順と慰謝料相場」もあわせてご覧ください。

勤怠不良が主な問題の場合

遅刻・欠勤が中心であれば、能力ではなく勤務態度・勤怠の問題として整理するほうが、事実を説明しやすくなります。詳しくは「無断欠勤で解雇は何日から?「2週間」の意味と会社側の対応」で解説しています。

このように、「能力不足」と一括りにせず、問題の本当の原因を事実から分けて整理することが、適切な対応の第一歩です。原因によって、取るべき手続きも、会社が負うリスクも変わります。

IT企業・サービス業でよくあるケース

ケース1:中途採用のエンジニアが期待した水準に達しない

即戦力として高い報酬で採用した場合、募集要項や面接で伝えた水準と実際のスキルに明らかなギャップがあれば、解雇が認められやすい類型です。ただし、期待した水準を具体的にどう伝えたか、課題のフィードバックと改善期間を設けたかが重要です。

ケース2:未経験で採用した若手が、ミスを繰り返す

育成を前提にした採用の場合、会社の指導・教育が尽くされていなければ、解雇は無効になるリスクが高いです。まずは指導体制の見直しと、配置の変更を検討してください。

ケース3:接客・営業職で、顧客対応の苦情が続く

苦情の内容、回数、指導の内容を記録に残します。単なる「相性の問題」ではなく、業務に支障が出ていることを、客観的に説明できる状態にしておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 試用期間中なら、理由なしで解雇できますか?

できません。試用期間中でも、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。ただし、本採用後より会社の裁量が広く認められる面はあります。

Q2. 試用期間が終わる直前に解雇すれば有利ですか?

有利にはなりません。むしろ、直前まで指導も記録もなければ、理由の合理性が疑われます。問題があれば、早い段階で本人に伝え、改善の機会を与えてください。

Q3. 解雇予告手当を払えば、理由は問われませんか?

問われます。予告手当は、予告の手続きを省略するためのお金であり、解雇の有効性とは別の問題です。手当を払っても、理由を欠く解雇は無効になり得ます。

Q4. 本人に自主退職を求めても大丈夫ですか?

退職の「お願い」は可能ですが、強要は違法になり得ます。面談の回数や時間、人数、言葉遣いに気をつけ、本人が考える時間を確保してください。

Q5. 解雇を通知したら、本人が争うと言ってきました。どうすれば?

感情的なやり取りを避け、それまでの指導記録・面談記録・就業規則を整理したうえで、早めに弁護士へご相談ください。初期対応の誤りが、後の交渉や審判に大きく影響します。

解雇を通知するときの実務と、無効になった場合のリスク

解雇通知書に書くべきこと

解雇を決めた場合は、口頭だけでなく書面で通知します。解雇日、解雇の理由(就業規則のどの条項に該当するか)、解雇予告手当を支払う場合はその金額と支払日を明記します。理由は、後から変更・追加しにくいため、実際に指導・記録した事実の範囲で、簡潔かつ正確に書くことが大切です。

解雇が無効になった場合に会社が負うもの

解雇が無効と判断されると、労働契約は続いていたことになり、会社は解雇から判決(または和解)までの期間の賃金(バックペイ)を支払う義務を負います。労働審判や訴訟が長引くほど、金額は大きくなります。そのため、実務では、解決金を支払って合意退職とする和解が選ばれることも少なくありません。

解雇を急がないほうがよい理由

能力不足を理由とする解雇は、勝敗の見通しが立てにくい類型です。解雇の前に、①記録の整理、②改善機会の追加付与、③退職勧奨の条件(退職日・退職金・有給消化・離職理由の扱い)の検討を行うほうが、会社にとっても安全です。離職理由の扱い(会社都合か自己都合か)は、本人の失業給付にも影響するため、話し合いの中で丁寧に確認してください。

Q6. 成績が悪い社員を降格・減給にするのはどうですか?

降格や減給は、解雇より軽い処分ですが、就業規則や賃金規程に根拠が必要で、評価の基準や手続きが不合理だと無効になることがあります。解雇を避ける選択肢として検討する場合も、根拠規定と評価の記録を先に確認してください。

まとめ

  • 試用期間中でも、能力不足による解雇には客観的合理性と社会的相当性が必要(労契法16条)
  • 14日以内なら解雇予告は不要だが、理由は必要(労基法20条・21条)
  • 採用区分(新卒・中途・専門職)によって、会社に求められる指導の程度が異なる
  • 期待水準の明示→指導→記録→配置転換→退職勧奨・解雇の順で進める
  • 退職勧奨は強要にならないよう注意し、迷ったら早めに弁護士へ相談する
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事情に応じた判断は専門家へのご相談をおすすめします。企業法務でお悩みの際は、弁護士法人Si-Law(八代市)へお気軽にご相談ください。