BLOG 法律相談ブログ

企業コンプライアンス~ハラスメント相談窓口の設置義務と運用|医療機関の担当者・周知・外部委託を熊本の弁護士が解説~

2026/10/01 09:13|カテゴリー:企業コンプライアンス、医療機関

こんにちは。弁護士法人Si-Lawです。

結論からお伝えすると、ハラスメント相談窓口の設置は、医療機関を含むすべての事業主(中小企業・小規模クリニックも例外なし)に法律上求められている義務です。パワーハラスメントについては、労働施策総合推進法に基づき、中小企業でも2022年4月1日から防止措置が義務化されています。ただし、窓口の看板を掲げるだけでは足りません。相談を受けたあとに「迅速かつ適切に」動けて初めて、義務を果たしたと評価されます。

本記事では、熊本・八代で医療機関の顧問をお受けしている弁護士の立場から、①設置義務の中身、②医療機関ならではのハラスメントの場面、③窓口の作り方と周知、④相談を受けた後の対応手順、⑤社内対応と外部委託の使い分け、⑥よくある失敗と予防策を、実務目線でまとめます。

クリニックでハラスメント相談窓口の運用を弁護士が説明するイメージ

ハラスメント相談窓口は「設置義務」がある?法律上のルール

根拠になる3つの法律

相談窓口を含む「雇用管理上の措置」は、ハラスメントの種類ごとに次の法律で事業主に義務づけられています。

ハラスメントの種類 根拠となる法律 中小企業への適用
パワーハラスメント 労働施策総合推進法(30条の2) 2022年4月1日から義務(それ以前は努力義務)
セクシュアルハラスメント 男女雇用機会均等法(11条) 従来から義務
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント 男女雇用機会均等法(11条の3)・育児介護休業法(25条) 従来から義務

つまり、パワハラ・セクハラ・マタハラ(妊娠・出産等に関するハラスメント)の3類型について、事業主は「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること」が求められます。従業員が数名のクリニックであっても、1人でも労働者を雇っていれば対象です。

厚生労働省の指針が定める「講ずべき措置」

厚生労働大臣の指針では、事業主が講ずべき措置が大きく4つに整理されています。相談窓口は、そのうちの2つ目にあたります。

  • ①事業主の方針の明確化とその周知・啓発(就業規則等への明記、社内掲示など)
  • ②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する)
  • ③職場におけるハラスメントへの迅速かつ適切な対応(事実関係の確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止)
  • ④併せて講ずべき措置(相談者・行為者等のプライバシー保護、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止の周知)

実務では、②の「窓口を置いた」ことだけで安心してしまい、③④が抜けているケースが目立ちます。窓口は入口にすぎず、その先の対応がセットで問われる点に注意してください。

義務に違反するとどうなるか

相談窓口を設けていないこと自体に、刑事罰が直接定められているわけではありません。しかし、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象になり、悪質な場合は企業名の公表につながる可能性があります。さらに実務上より大きいのは、民事上のリスクです。ハラスメントが起きた場合、会社は使用者責任(民法715条)や安全配慮義務違反(労働契約法5条)を問われ、「防止措置をとっていたか」「相談後に適切に動いたか」が損害賠償額や過失の判断に影響します。

医療機関でハラスメントが起きやすい場面と特有のリスク

院内の上下関係・専門職の縦社会

医療機関は、医師・看護師・薬剤師・放射線技師・医療事務など、資格と経験年数によって序列ができやすい職場です。指導や教育と称した過度な叱責、「見て覚えろ」という放置、特定のスタッフへの業務の押しつけなどが、パワハラとして問題になりやすい場面です。夜勤や緊急対応で心身の負荷が高いことも、感情的な言動が出やすい背景になります。

患者・家族からのカスタマーハラスメント

医療機関では、患者やその家族から職員への暴言・長時間のクレーム・過度な要求(いわゆるカスハラ)も深刻です。近年は、カスハラ対策を事業主に求める法改正も進んでおり、今後は「従業員を患者から守る体制」も窓口運用の一部として整える必要性が高まっています。施行時期や具体的な措置の内容は最新の情報をご確認ください。

小規模クリニックで窓口が機能しにくい理由

スタッフ10名ほどの小さなクリニックでは、相談先が院長か事務長しかいないことが珍しくありません。ところが、行為者がその院長本人や院長の親族であれば、相談窓口は事実上機能しません。「相談したら不利益を受けるのではないか」という不安から、相談が上がらないまま退職者が出てしまう、という相談は当事務所にも寄せられます。

この点で、院内の誰が行為者になっても相談できるルートを複線化しておくことが、小規模の医療機関ほど重要です。後述する外部窓口の活用が有効になる場面でもあります。

相談窓口の作り方:担当者・受付方法・周知の実務

担当者の決め方と研修

窓口担当者は、プライバシーを守れること、中立的に話を聴けること、ハラスメントの基本知識を持つことが必要です。指針でも、相談窓口の担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにすることが求められています。できれば複数名(男女双方、院長の影響を受けにくい立場の者を含む)を置き、聴き取りの進め方について研修を行います。

  • 担当者は可能なら2名以上、性別・立場に配慮して配置する
  • 相談を受けたときの聴き取りシートを用意する(いつ・どこで・誰が・何を・どのように)
  • 「パワハラかどうか」を窓口段階で判断しすぎず、広く相談を受ける
  • 行為者が担当者本人の場合に備えた代替ルートを決めておく

受付方法(面談・メール・電話・外部)

相談の入口は、面談だけでなくメールや電話、書面など複数用意すると、相談しやすくなります。院内の担当者に加えて、社外の弁護士事務所や専門機関を窓口に指定する方法もあります。いずれの場合も、相談の記録の保管場所とアクセスできる人の範囲を決め、情報が漏れない仕組みにしておきます。

周知の方法と就業規則への明記

指針は、窓口を定めたうえで「労働者に周知すること」を求めています。掲示だけでなく、入職時の説明、定期的な全体ミーティング、院内の共有フォルダや社内ポータルなど、複数の方法で繰り返し知らせるのが望ましいといえます。あわせて、就業規則や服務規律に次の内容を明記してください。

  • ハラスメントは許されないという会社の方針
  • 行為者に対しては懲戒処分を含めて厳正に対処すること
  • 相談したこと、調査に協力したことを理由に不利益な取扱いをしないこと
  • 相談窓口の名称・連絡先・受付方法

就業規則に懲戒の根拠がなければ、後から行為者を処分しようとしても争われやすくなります。窓口の設置と同時に、規程の整備も進めてください。

ハラスメント相談を受けてからの対応の流れ

相談を受けたあとの対応手順:初動から再発防止まで

①受付時:秘密保持と不利益取扱い禁止を最初に伝える

相談者が最初に不安に思うのは「話した内容が広まらないか」「相談したことで不利になるのではないか」です。受付の冒頭で、秘密を守ること、相談を理由に不利益な扱いをしないことを明確に伝えます。そのうえで、相談者の希望(事実調査を望むのか、まず話を聞いてほしいだけなのか、配置転換を望むのか)を確認します。

②事実関係の確認:双方・第三者から聴取し、記録を残す

指針は、事実関係を迅速かつ正確に確認することを求めています。相談者だけでなく行為者にも聴き取りを行い、見解が食い違う場合は目撃した同僚など第三者にも確認します。聴取内容は日時・場所・発言をできるだけ具体的に記録します。

  • 聴取は先入観を持たず、相手の人格を責めない言い方で行う
  • メール・チャット・シフト表・勤務記録など客観的な資料を確保する
  • 行為者が事実を争う場合でも、聴取の機会を必ず与える
  • 聴取の場にいる人数や場所にも配慮し、秘密を守る

③被害者への配慮と行為者への措置

事実が確認できた場合は、被害者の心身のケア(産業医・相談機関の紹介、配置転換や就業環境の調整など)と、行為者への措置(注意・指導、就業規則に基づく懲戒、配置転換など)を行います。ここで気をつけたいのは、被害者を異動させることが「不利益取扱い」にならないよう、本人の意向を丁寧に確認することです。懲戒は、行為の内容と程度に見合った相当な処分でなければ、後で無効を主張されるおそれがあります。

④再発防止:研修と環境の見直し

個別の解決だけで終わらせず、再発防止策を講じます。院内でのハラスメント研修、方針の再周知、指導方法のルール化、シフトや業務量の見直しなどです。相談件数や内容を匿名化して定期的に振り返ると、組織の課題が見えてきます。

社内窓口と外部委託の使い分け:メリット・費用感

社内窓口と外部窓口には、それぞれ得意・不得意があります。医療機関の規模や、院内に独立した立場の担当者を置けるかどうかで選び方が変わります。

項目 社内窓口 外部窓口(弁護士・専門機関)
相談のしやすさ 身近で相談しやすい反面、行為者との関係で言い出しにくい場合がある 院内に知られにくく、相談のハードルが下がりやすい
中立性・専門性 担当者の経験に左右されやすい 法的な判断や調査の進め方に強い
費用 追加費用は少ない(担当者の時間は必要) 月額数万円程度の顧問・委託料が一例(内容により異なる)
向いているケース 一定規模以上で、独立性のある担当者を置ける 小規模クリニック・院長が行為者になりうる場合

外部窓口を利用する場合も、最終的な措置の判断責任は会社にあることは変わりません。窓口を外部に置いたことで、事業主の義務がなくなるわけではない点にご注意ください。実際には、「受付は外部の窓口、事実調査と措置は院内の責任者+顧問弁護士」と役割を分ける運用が多くみられます。

費用面では、外部窓口の相場は相談件数や対応範囲(受付のみか、調査・措置の助言まで含むか)で大きく変わります。「受付だけ」を安価に委託し、実際に事案が起きたときは顧問弁護士に調査や処分の相談をする、という段階的な使い方も現実的です。クリニックの人数、過去の相談の有無、院長との関係性をふまえて、無理のない形を選んでください。年に一度は、窓口の利用状況と周知の浸透度を点検し、必要に応じて担当者や受付方法を見直すことも忘れないようにしましょう。

「内部通報窓口」との違い

公益通報者保護法に基づく内部通報窓口(従業員300人を超える事業者には体制整備義務、300人以下は努力義務)は、法令違反行為の通報を対象とする別の制度です。ハラスメント窓口と兼ねて設置することは可能ですが、対象や根拠法が異なるため、規程上は区別して整理しておくと運用しやすくなります。

熊本・八代の医療機関に多い失敗例と予防策

窓口はあるが、誰も使っていない

院内に貼り紙があるだけで、誰が担当なのか、どう相談すればよいのか分からない、という状態は非常に多く見られます。地方では職員同士の人間関係が近く、「あの人に相談したら筒抜けになる」と思われてしまうことも少なくありません。担当者の氏名・連絡先・秘密保持の約束を示すこと、外部窓口の併設、匿名で相談できる仕組みの用意が有効です。

院長・理事長自身が行為者のケース

経営者本人が行為者の場合、社内窓口は機能しにくく、相談者が労働基準監督署や外部の労働相談窓口、弁護士に直接相談に行くことになりがちです。この場合、会社が後手に回ると、紛争は一気に拡大します。早い段階で顧問弁護士など第三者を入れて、調査と対応の公平性を確保することが、結果的に院を守ることになります。

「パワハラではない」と窓口段階で断ってしまう

窓口担当者が「これは指導の範囲だ」と最初から決めつけて相談を打ち切ると、相談者の不信感が高まり、外部への申告や退職・訴訟に発展しがちです。パワハラに当たるかの判断は、優越的な関係、業務上必要かつ相当な範囲を超えているか、就業環境が害されているかという要素を、事実確認のうえで慎重に行う必要があります。窓口は、まず広く相談を受け止める役割と考えてください。

相談後の対応が遅い・記録がない

相談から数か月放置した、聴取の記録を残していない、といった対応は、後に損害賠償請求がされた際に不利に働きます。反対に、速やかに聴取を行い、措置とその理由を記録していた場合は、「適切に対応した」と評価される材料になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 従業員が数名しかいないクリニックでも窓口は必要ですか?

必要です。労働者を雇用している以上、事業主の防止措置義務は規模にかかわらず適用されます。小規模の場合は、院長以外の窓口(外部の弁護士・専門機関など)を併せて指定することをおすすめします。

Q2. 相談窓口を外部に委託すれば、会社の義務は果たせますか?

相談の受付を外部に置くこと自体は有効な方法ですが、事実関係の確認や被害者・行為者への措置、再発防止などは事業主の責任で行う必要があります。外部窓口と院内の責任者の役割分担を事前に決めておくことが大切です。

Q3. 相談者が「調査はしないでほしい」と言った場合はどうしますか?

相談者の希望は尊重しつつ、放置すると被害が続くおそれがある場合は、相談者の同意を得る努力をしたうえで対応を検討します。相談者を特定されない形での全体研修や、配置の工夫など、本人の意向に沿った方法を探ります。判断に迷う場合は、早めに弁護士へご相談ください。

Q4. 窓口担当者に、行為者が相談の内容を聞き出そうとしたらどうなりますか?

秘密保持の違反となり、相談者の不利益につながるおそれがあります。相談記録へのアクセス権限を限定し、担当者への研修と、秘密保持の誓約をあらかじめ整えておいてください。

まとめ

  • ハラスメント相談窓口の設置・周知は、パワハラ・セクハラ・マタハラについて、規模を問わずすべての事業主の義務(パワハラは中小企業も2022年4月1日から)
  • 義務は「窓口を置く」だけでなく、方針の明確化・迅速適切な対応・プライバシー保護・不利益取扱い禁止の周知までを含む
  • 医療機関は専門職の縦社会と患者・家族からのカスハラという特有のリスクがある
  • 小規模クリニックでは、院長が行為者になる場合に備えて外部窓口や顧問弁護士を活用する
  • 相談を受けたら、秘密保持を伝え、事実確認と記録、被害者への配慮・行為者への措置、再発防止まで一連で行う
  • 就業規則へのハラスメント禁止と懲戒の根拠規定の明記も同時に整備する

熊本・八代の医療機関では、人間関係が近いぶん、相談が表に出にくく、問題が大きくなってから発覚することがよくあります。弁護士法人Si-Lawでは、企業法務の顧問として、ハラスメント窓口の設計、規程の整備、相談後の事実調査や措置のご相談まで、中小企業の経営者目線でサポートしています。早めの体制づくりが、職員とクリニック双方を守ります。

企業法務のお悩み、まずはお気軽にご相談ください
弁護士法人Si-Law(熊本県八代市)の公式LINEから、労務・契約・債権回収など会社の法律相談を承ります。

弁護士にLINEで無料相談 ▶

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事情に応じた判断は専門家へのご相談をおすすめします。企業法務でお悩みの際は、弁護士法人Si-Law(八代市)へお気軽にご相談ください。