BLOG 法律相談ブログ

解雇

懲戒について(4)

2020/04/13 11:09|カテゴリー:解雇

今回は,懲戒処分の種類について簡単にご紹介します。

 

1 譴責・戒告

文書または口頭で労働者に対して将来を戒める(反省を求める)処分であり,懲戒処分の中では最も軽い処分の類型になります。

譴責の場合には始末書等の書面の提出を労働者に求め,戒告の場合には書面の提出を求めないこと多く,譴責の方が重い処分と考えられています。

始末書等の提出を求めても労働者が応じない場合にそのことを理由にさらに懲戒処分をすることはできないと考えられています。

 

2 減給

その名のとおり,労働者の賃金を一定期間減額する処分です。

労働基準法91条により,減給できる限度が定められています。

(1回あたり1日の平均賃金の半額を超えて減給をしてはならず,総額で一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えて減給をしてはならないとされています。)

 

3 出勤停止

いわゆる停職処分であり,出勤停止期間中は賃金を支給せず,勤続年数にも通算しない場合が多いと思います。

賃金が支給されないため労働者の不利益が大きく,出勤停止期間が長期にわたると無効と判断される可能性が高くなります。

一般的には,出勤停止の期間は1週間から2週間程度とすることが多いと思われます。

 

4 降職・降格

人事制度における役職・職位・職能資格等を下げる処分です。

人事権行使としての降格とは区別されます。

役職等が下がることにより,賃金規程等の定めにしたがって賃金が減額となる場合が多いですが,

その場合であっても2記載の減給処分をしたことにはなりません。

 

5 諭旨解雇・懲戒解雇

いずれも懲戒処分として労働者を解雇するものであり,最も重い懲戒処分の類型になります。

諭旨解雇は,懲戒解雇事由がある場合であっても,これまでの功績,労働者の反省等の事情を考慮して懲戒解雇を避ける場合にとられる処分であり,

退職金の支給額についても懲戒解雇より有利に取り扱う場合が多いです。

また,労働者に一旦退職願等の提出を促し,それが提出されない場合に労働者を解雇するという手続をとる場合もあります。

いずれの場合であっても,労働者としての地位を奪うことになり,労働者の不利益が著しく大きいので,その有効性は厳格に判断されます。

懲戒について(3)

2020/02/04 09:51|カテゴリー:解雇

1 自宅待機命令とは

労働者を懲戒するにあたって,会社内部で事実関係の調査が必要になる場合があります。たとえば,上司から部下へのセクハラが疑われる場合に,そのような事実が確実にあるといえるのかについては,関係者への聴き取り等の調査をしなければ不明な場合が多いと思われますが,加害者と疑われる上司に従前の業務を継続させたまま事実関係の調査をすることが不適切と思われる場合もあると思われます。そのような場合,事実関係を調査し,当該労働者を懲戒するかどうかを判断するまでの間,当該労働者に自宅待機を命じることがあります。これを,自宅待機命令といいますが,あくまで業務上の命令として自宅待機を義務づけているものであり,懲戒処分としての出勤停止とは異なります。

自宅待機命令について,就業規則に明記してある場合も多いですが,仮に就業規則に明記されていなかったとしても,発令することが可能です。

ただし,事実調査の必要性がない場合や不当に長期間自宅待機を命じた場合には違法と判断されることになります。

 

2 自宅待機中の賃金

自宅待機命令は,通常,事実関係がはっきりせず,懲戒をすべきか否か不明な段階で会社が調査を行うために発するものであり,会社の都合で就労を拒否することになりますので,原則として,労働者に対して,自宅待機中の賃金を支払う必要があります(出社をさせた場合に証拠隠滅のおそれがある等の緊急かつ合理的な理由がある場合には,自宅待機中の賃金を支払わなくても適法とされる可能性はありますが,実務上は,賃金全額を支払うことが多いと思われます。)。

懲戒について(2)

2020/02/04 09:50|カテゴリー:解雇

1 懲戒解雇と解雇予告手当

労働者を解雇するには,30日前までに解雇を予告するか,30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項本文)。ただし,「…労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」については,上記解雇予告または解雇予告手当の支払をしなくてもよいとされており(労働基準法第20条第1項但し書),懲戒解雇をする場合は,上記「…労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に該当するとして,30日前の解雇予告も解雇予告手当の支払をしないということも可能です。

もっとも,解雇予告も解雇予告手当の支払もせずに解雇する場合には,事前に労働基準監督署長による認定(「除外認定」といいます。)を受けなければならないこととされています(労働基準表第20条第1項ただし書,同条第3項,同第19条第2項)。この除外認定を受けるには,ある程度の時間(1~2週間程度)を要します。裁判例上,除外認定を受けずに,解雇予告や解雇予告手当の支払もしないまま解雇をしたとしても,解雇が無効となるわけではないとされていますが,労働基準法の定める手続に違反することになりますので,実務上は,懲戒解雇の場合にも解雇予告手当を支払うことが多いです。

 

2 懲戒解雇と退職金

就業規則に,懲戒解雇の場合には退職金を支給しない(あるいは減額する)などと規定をする場合があります。このような規定を根拠に懲戒解雇をする場合に退職金を不支給または減額とすることが可能でしょうか。

退職金については,一般的に,賃金の後払的性格及び勤続に対する功労報償的な性格を有するものとされています。そのような観点から,裁判例上,就業規則に上記のような退職金の不支給または減額についての定めがある場合であっても,労働者のそれまでの功績を抹消(不支給の場合)または減少(減額の場合)させるほどの重大な背信行為がなければ,退職金の不支給または減額は無効となるものとされています。

退職金の不支給または減額の有効性については,背信行為の性質,当該背信行為による会社業務への影響の程度,労働者のそれまでの勤務実績,過去の処分との比較等の様々な事情を考慮して判断されることとなりますが,裁判において,退職金の全額不支給が有効とされることはあまりなく,一定割合の退職金の支払を命じられることが多いです。

したがいまして,就業規則に懲戒解雇の場合には退職金を支給しない(あるいは減額する)といった規定がある場合であっても,退職金の取扱いについては慎重に判断する必要があります。