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債権回収~不動産業の家賃滞納・賃料未払いと建物明渡しの進め方(熊本・八代)~
2026/09/23 09:03|カテゴリー:不動産業、債権回収
こんにちは。弁護士法人Si-Lawです。
家賃を滞納している入居者から賃料を回収し、部屋を明け渡してもらうには、「滞納3か月を目安に、内容証明郵便で催告と契約解除を行い、建物明渡訴訟を起こして強制執行まで進める」というのが基本の道筋です。早ければ内容証明の発送から4か月程度で明渡しが完了しますが、途中で鍵を交換したり荷物を運び出したりすると、逆にオーナー側が損害賠償を負います。
今回は、熊本・八代でアパートや貸店舗を経営されているオーナー様、賃貸管理会社様に向けて、滞納賃料の回収と建物明渡しの実務を、期間・費用・落とし穴まで含めて整理します。

家賃滞納は「何か月で動くか」で結果が変わる
賃料未払いの相談で最初に伺うのは、滞納が何か月分たまっているかです。ここが対応方針を分ける最大のポイントになります。
滞納2か月では契約解除が認められにくい
賃貸借契約には「信頼関係破壊の法理」という考え方があります。契約書に「1か月でも滞納したら解除できる」と書いてあっても、裁判所は、当事者の信頼関係を壊すほどの不履行がなければ解除を認めません。
実務上、滞納が1〜2か月の段階で解除を主張しても、裁判で覆されるおそれがあります。この段階では、解除を急ぐよりも、督促の記録をきちんと残すことに力を注ぐべきです。
3か月が一つの目安になる
一方、滞納が3か月分に達し、催告しても支払いがない場合には、信頼関係が破壊されたと評価されやすくなります。多くの裁判例がこの水準を一つの区切りとしています。
もっとも、3か月は絶対の基準ではありません。過去にも繰り返し滞納していた、連絡を一切無視している、無断転貸や近隣トラブルが重なっているといった事情があれば、より短い期間でも解除が認められることがあります。逆に、これまで長年きちんと支払ってきた入居者が一時的に滞納しただけ、という場合は慎重な判断が必要です。
「連絡が取れない」ケースこそ早めに動く
八代や熊本市内のご相談で多いのが、電話に出ない、郵便物もたまっている、しかし部屋の中には荷物があるという状態です。オーナー様としては「夜逃げしたのでは」と考えがちですが、勝手に部屋に入って荷物を処分することは絶対にできません。
所在不明の相手にも、公示送達という方法を使えば訴訟を進められます。放置している間に滞納額だけが膨らむため、連絡が取れない状態が2か月続いたら、その時点でご相談いただくのが賢明です。
滞納発生から明渡しまでの全体の流れ
賃料未払いから明渡しが完了するまでは、次の5段階で進みます。

段階ごとの期間の目安
| 段階 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| ①督促 | 電話・書面で支払いを求め、記録を残す | 滞納1〜2か月 |
| ②催告・解除 | 内容証明郵便で7日程度の期限を切り、支払いがなければ解除する旨を通知 | 2週間程度 |
| ③訴訟提起 | 建物明渡しと滞納賃料の支払いを求めて提訴 | 提訴から判決まで2か月前後 |
| ④判決・和解 | 退去期限と支払方法を決める和解が成立することも多い | 数週間 |
| ⑤強制執行 | 執行官が明渡しの催告を行い、その後に断行(荷物の搬出) | 申立てから1〜2か月 |
途中で任意に退去してもらえれば、もっと早く終わります。逆に、すべて裁判所の手続を使い切ると、内容証明の発送から明渡し完了まで最短でも4か月程度はかかるとお考えください。
内容証明郵便による催告と解除の書き方
この通知は、後の裁判で「きちんと催告したうえで解除した」ことを証明する証拠になります。次の要素を落とさないようにします。
- 滞納している月と金額を1件ずつ特定して記載する
- 支払期限を明示する(発送から7日〜10日程度)
- 期限までに支払いがない場合は、あらためて通知することなく賃貸借契約を解除する旨を記載する(停止条件付きの解除の意思表示)
- 連帯保証人にも同じ内容の通知を送る
「期限が過ぎたら解除する」と書いておけば、二度手間を避けられます。逆に、催告だけして解除の意思表示を書き忘れると、あらためて解除通知を出し直すことになり、1〜2週間を無駄にします。
訴訟・強制執行にかかる実費
見落としやすいのが、強制執行の費用です。訴訟の印紙代や郵便切手は数万円程度ですが、明渡しの強制執行では、執行官への予納金のほか、荷物の搬出・運搬・保管・処分の費用がかかります。ワンルームでも十数万円、家財の多い世帯では数十万円に達することがあります。
しかも、これらは原則としてオーナー側がいったん立て替えます。判決で相手に請求できる建前ではあっても、支払えない相手から取り戻すのは容易ではありません。「強制執行まで行けば勝てる」ことと「損をしない」ことは別問題だという前提で、方針を決める必要があります。
絶対にやってはいけない対応――自力救済の禁止
ここは賃料未払い対応で最も事故が起きやすい部分です。良かれと思ってやった行為が、オーナー側の加害行為になってしまいます。
鍵の交換・荷物の撤去は違法
日本の法律は、権利があっても実力で実現することを原則として禁じています(自力救済の禁止)。滞納が事実であっても、裁判所の手続を経ずに鍵を交換して締め出したり、室内の家財を運び出して処分したりすれば、不法行為として損害賠償責任を負います。
処分した家財の価額だけでなく、住まいに入れなかったことによる慰謝料まで認められた例もあります。「契約書に、滞納したら鍵を交換できると書いてある」という場合でも同じです。そうした条項自体が無効と判断されます。
督促の方法にも配慮が必要
玄関ドアに滞納を知らせる貼り紙をする、深夜や早朝に訪問する、勤務先に繰り返し電話するといった督促は、プライバシー侵害や私生活の平穏の侵害と評価されるおそれがあります。
督促は、日中の電話と、封書または内容証明郵便で行うのが原則です。記録を残すという意味でも、書面中心に切り替えていただくようお勧めしています。
保証会社任せでも責任は消えない
家賃債務保証会社が入っているケースでも、回収の方法は法律の枠内でなければなりません。最高裁は令和4年12月12日、家賃債務保証業者の契約条項のうち、無催告で賃貸借契約を解除できるとする条項や、一定の事情があれば賃借人が建物の明渡しをしたものとみなす条項について、消費者契約法10条により無効と判断しました。
「保証会社が付いているから大丈夫」ではなく、保証会社がどのような手順で動くのかを、オーナー側も把握しておく必要があります。
滞納賃料そのものを回収する手段の選び方
明渡しと、滞納賃料の回収は別の話です。金銭の回収だけを考えるなら、より簡易な手続もあります。
| 手続 | 使える場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 支払督促 | 金銭の請求のみ。書類審査で出頭が不要 | 相手が異議を出すと通常訴訟に移行する。明渡しには使えない |
| 少額訴訟 | 60万円以下の金銭請求。原則1回の期日で判決 | 同じ簡易裁判所で年10回までの制限。相手が希望すれば通常訴訟に移行する |
| 通常訴訟 | 明渡しと賃料請求をまとめて求められる | 期間はかかるが、明渡しを実現できるのはこの手続だけ |
明渡しが目的なら通常訴訟に一本化する
「まず支払督促で様子を見よう」と考える方もいますが、部屋を空けてもらうことが最終目標であれば、最初から建物明渡しと滞納賃料の支払いを一つの訴訟で求めるほうが早く、費用も抑えられます。判決では、明渡しが完了するまでの賃料相当損害金も併せて認められます。
勝訴しても自動で回収できるわけではない
判決を得た後、相手が任意に支払わなければ、預金や給与の差押えを申し立てることになります。給与を差し押さえる場合、原則として手取額の4分の1までが対象です。相手の勤務先や取引銀行が分からなければ、この手段も使えません。
だからこそ、入居審査の段階で勤務先を確認し、契約書に記載しておくことが、後の回収可能性を大きく左右します。
滞納賃料の時効は5年
賃料債権は、支払期日から原則5年で時効により消滅します。「いつか払ってくれるだろう」と放置していると、古い分から請求できなくなります。裁判上の請求や、相手の承認(一部支払いや支払猶予の申入れ)があれば時効の完成は妨げられますが、口頭のやり取りだけでは証明できません。承認を得たときは必ず書面にしてください。
連帯保証人と家賃債務保証会社の使い分け
極度額の定めがない個人保証は無効
2020年4月に施行された改正民法により、個人が賃貸借契約の連帯保証人になる場合は、保証する上限額(極度額)を書面で定めなければ、保証契約そのものが効力を生じません(民法465条の2)。
古い書式をそのまま使い続けている管理会社では、この定めが抜け落ちていることが少なくありません。いざ滞納が起きて保証人に請求したら、保証が無効だったという事態は、実際に起きています。まだ見直していない書式があれば、今すぐご確認ください。
保証人からの問い合わせには答える義務がある
入居者の委託を受けて保証人になった人から請求があったときは、賃貸人は、滞納額を含む債務の状況を情報提供しなければなりません(民法458条の2)。保証人への連絡を後回しにすると、滞納額が膨らんでから知らされた保証人との間で紛争になりがちです。滞納が2か月に達した段階で、保証人にも通知しておくのが実務的です。
保証会社を使う場合の確認事項
家賃債務保証会社を利用する場合は、代位弁済の範囲(滞納賃料だけか、原状回復費用や明渡訴訟の費用まで含むか)、代位弁済を受けるための通知期限、明渡訴訟をオーナー名義で行うのか保証会社が主導するのかを、契約時に確認しておきます。通知期限を過ぎたために保証が受けられなかった、というご相談は珍しくありません。
熊本・八代の賃貸経営で、回収より大事なこと
ここからは、地元で不動産業のご相談を受けている立場からの実感です。
「勝っても損」になりやすい構造
家賃4万円台の物件で3か月分の滞納(12万円)が発生し、訴訟と強制執行をすべて行った場合、実費と弁護士費用を合わせると、回収額を上回ることがあります。相手に資力がなければ、判決は紙のままです。
そのため当事務所では、滞納額と相手の資力を踏まえて、「回収を目指すのか」「部屋を早く空けて次の入居者を入れることを優先するのか」を、最初にオーナー様と整理します。目的が定まれば、打つ手も費用のかけ方も変わります。
合意退去という現実的な選択
実務では、訴訟の中で「○月末までに退去すれば、滞納分の一部を免除する」という和解が成立するケースが多くあります。強制執行の費用と時間を考えれば、この解決のほうがオーナー様の手取りが大きくなることは珍しくありません。
ただし、和解調書には「期限までに退去しなければ直ちに強制執行ができる」旨を入れておきます。これがあれば、約束が守られなかったときに訴訟をやり直す必要がありません。八代の物件であれば、訴訟は原則として物件の所在地を管轄する裁判所で行うことになり、地元で進められる点も負担の軽減につながります。
単身高齢者の入居と残置物の問題
地方の賃貸経営では、単身高齢者の入居が増えています。滞納の背後に、年金の目減りや認知機能の低下、ご本人の死亡が隠れていることもあります。この場合、相続人を調べて交渉する必要が生じ、通常の滞納対応とは進め方が変わります。
国土交通省が示している残置物の処理等に関するモデル契約条項のように、あらかじめ受任者を定めておく仕組みもあります。入居時の備えとして検討する価値があります。
顧問弁護士を使った予防法務――契約書と初動を変える
賃貸借契約書で見直すべき条項
- 連帯保証人の極度額の定め(記載がなければ個人保証は無効)
- 遅延損害金の定め(個人が借主の消費者契約では年14.6%が上限)
- 解除事由の明確化と、催告の方法の定め
- 入居者の勤務先・緊急連絡先の記載と、更新時の再確認
- 明渡し時の残置物の取扱いに関する定め
管理会社の初動マニュアルを作る
滞納1か月で電話と書面、2か月で保証人・保証会社へ通知、3か月で弁護士へ相談――このように、月数ごとに誰が何をするかを決めておくだけで、対応の遅れによる損失が大きく減ります。担当者が替わっても同じ動きができることが、管理会社にとっての財産になります。
顧問契約で「送る前に聞ける」状態にする
賃料未払いの対応で費用が膨らむのは、初動を誤って後から立て直す場面です。内容証明を送る前に文面を確認する、解除のタイミングを相談する、といった短いやり取りを気軽にできることが、顧問契約の実際的な価値だと考えています。1件ごとにご依頼いただくより、結果として費用は抑えられます。
家賃滞納についてよくあるご質問
滞納の一部だけ支払われた場合、解除できますか
一部の支払いがあると、解除は難しくなる方向に働きます。裁判所は、支払う意思の有無も含めて信頼関係が壊れたかどうかを判断するためです。
ただし、催促のたびに1か月分だけ入れて、滞納の総額は減らないという状態が長く続いているのであれば、解除が認められる余地はあります。入金の履歴を時系列で整理したうえで判断することになりますので、通帳の記録は必ず残しておいてください。
敷金から滞納分を充当してもよいですか
賃貸借契約が終了して明渡しが完了した時点で、敷金は当然に未払賃料に充当されます。一方、契約が続いている途中で、賃貸人の側から「敷金があるから滞納分に充てておく」と一方的に処理することは想定されていません。
また、滞納している入居者の側から「敷金を家賃に充ててほしい」と求めることもできません。敷金はあくまで明渡し時の清算のための担保だと整理しておくと、対応を誤りません。
テナント(事業用物件)でも同じ流れですか
基本の流れは同じですが、事業用物件の場合、滞納額が1か月でも数十万円単位になることがあり、判断のスピードがより重要になります。
また、店舗や工場では、退去後に残る設備・在庫・什器の量が住宅と比べものにならず、強制執行の費用が膨らみます。営業を続けながら分割で支払ってもらうほうが結果的に有利なケースも多く、早い段階で条件交渉に入る価値があります。
訴訟中に入居者が別の人に部屋を使わせていたら
判決は、訴えた相手にしか効力が及びません。訴訟の途中で第三者が住み始めると、その人に対しては強制執行ができず、また一から手続をやり直すことになります。
無断転貸や又貸しの気配があるときは、訴訟を起こす前に占有移転禁止の仮処分を申し立てておきます。手間は増えますが、振り出しに戻るリスクを避けられます。
まとめ
- 賃料未払いでの契約解除は、滞納3か月が一つの目安。1〜2か月の段階では解除が認められにくい
- 内容証明郵便には、滞納月・金額・支払期限に加え、期限経過時に解除する旨まで書き込む
- 内容証明から明渡し完了まで、最短でも4か月程度を見込む
- 鍵の交換や荷物の撤去は自力救済として違法。契約書に書いてあっても許されない
- 明渡しが目的なら、支払督促ではなく建物明渡訴訟に一本化するほうが早い
- 個人の連帯保証は、極度額の定めがなければ効力を生じない(民法465条の2)。古い書式は要点検
- 滞納賃料の時効は5年。承認を得たときは必ず書面に残す
- 強制執行の費用が回収額を上回ることもある。早期の合意退去も有力な選択肢
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事情に応じた判断は専門家へのご相談をおすすめします。企業法務でお悩みの際は、弁護士法人Si-Law(八代市)へお気軽にご相談ください。
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