弁護士法人 Si-Law

西田ブログ

ストックデールの逆説

ベトナム戦争の最盛期、「ハノイ・ヒルトン」と呼ばれた捕虜収容所で、最高位のアメリカ軍人だったジム・ストックデール将軍は、8年間の捕虜生活で20回以上に渡って拷問を受け、捕虜の権利を認められず、いつ釈放されるか見込みがたたず、生き残って家族に再会できるかすら分からない状況を生き抜いた。
ストックデール将軍はそんな過酷な状況の中で、できる限り多数の捕虜が生き残れる状況を作り出すとともに、捕虜を宣伝に使おうとする敵の意図を挫くために全力を尽くした。

例えば、剃刀で切って顔を傷つけ「厚遇されている捕虜」としてテレビ撮影されないようにしたり、見つかれば殺される可能性も覚悟して妻との手紙で秘密情報を交換したり、モールス信号のような暗号で捕虜同士の精巧な連絡手段を作り上げ、収容所側が狙いとする孤立感を和らげた。

ストックデール将軍は、釈放されて帰国した後、「収容所に放り込まれ、結末がどうなるかも分からないなかで、どのように苦境に対処したのか」という質問に対して、こう答えた。「私は結末について確信を失うことはなかった。ここから出られるだけでなく、最後には必ず勝利を収めて、この経験を人生の決定的な出来事にし、あれほど貴重な体験はなかったと言えるようにすると。」

また、「耐えられなかったのは、どういう人ですか」という質問に対しては、こう答えた。「楽観主義者だ。クリスマスまでには出られると考える人たちだ。クリスマスが近づき、終わる。そうすると復活祭までには出られると考える。そして復活祭が近づき、終わる。次は感謝祭、そして次はまたクリスマス。そうやって失望が重なって死んでいく。これは極めて重要な教訓だ。最後には必ず勝つという確信、これを失ってはいけない。だがこの確信と、それがどんなものであれ、自分の置かれている現実のなかで最も厳しい事実を直視する規律とを混同してはいけない。」

このストックデール将軍の、一見すると逆説的な姿勢は、自分自身の人生であれ、他人を率いる点であれ、世界的に偉大な企業を築き上げた経営者全員の特徴になっているそうです。企業が置かれている状況がどれほど厳しくても、自社がどれほど凡庸であっても、生き残るだけではなく、偉大な企業になるという確信が揺らぐことがない。しかし同時に、自分が置かれている現実のなかで最も厳しい事実を直視する姿勢を崩さない。一方向だけに偏ることのない二重性を身に付け、正しい決定を次々に下していく。

偉大な企業になるという確信は志であり、志なくして真の成功はあり得ません。一方、志だけで厳しい事実を直視しなければ、企業が成長し続ける戦略構築はできません。日々の経営の中で、ストックデール将軍の姿勢から学び、考えさせられることは多いのではないでしょうか。

 

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