弁護士法人 Si-Law

西田ブログ

2024年10月

事業承継~計画~

事業承継には、後継者の育成や知識・経験の引き継ぎ、資産評価や法的手続きなど、計画的な準備が不可欠です。

円滑な事業承継のために、中小企業庁も事業承継計画書の作成を推進しており、その重要性が広く認識されています。

実際に多くの人がこの事業承継計画書を活用して、スムーズに会社の引き継ぎを進められています。

この記事では、事業承継計画書の概要や手順、計画書の書き方など、事業承継計画について分かりやすく解説します。

 

事業承継計画とは?

事業承継計画は、会社を次の世代に引き継ぐための大切な準備です。

後継者の育成や財産の移行、手続きの整備など、多くの手順が含まれています。

これらは複雑で時間を要する作業ですが、計画をしっかり立てて準備を進めることで、引継ぎがスムーズに行えるようになります。

事業承継計画書と事業承継計画表の違い

事業承継計画書と事業承継計画表は、会社を引き継ぐ計画立てる際に使う重要なツールです。

 

■事業承継計画書:「何をするか」を具体的に書いた計画書

後継者の育て方やお金の評価、法律的な手続き、そして事業の戦略や手順など、事業承継の全体像を文書化します。

事業承継の方針を明確にし、計画的に進める指針となり、関係者での共有、金融機関や行政機関への説明資料としても活用できます。
■事業承継計画表:「いつ・誰が・何をするか」を時系列で整理した表

事業承継計画書に基づいて具体的なスケジュール、やるべきことの担当者や期限を明確にし、進捗状況を見える化します。

カレンダーやタイムラインに沿って誰がいつ何をするかが一目で分かるので、計画の進行を管理しやすく、遅れや問題点を早期に発見でき、対策を立てやすくなります。

なぜ事業承継計画書を作成する必要があるのか?

事業承継計画書の目的は、会社の状況を把握し、現経営者と後継者の考えを合わせ、関係者の協力獲得、後継者教育、そして事業承継税制を特例活用することの5つです。

 

会社の現状を把握するため

会社を次の世代に引き継ぐには、まず現状を正確に把握することが重要です。

 

・会社の強みや課題
・経営状況の詳細(財務状況、収益性など)
・従業員の概要(人数、年齢構成、スキルなど)
・取引先との関係性(主要取引先、契約状況など)

 

これらを明確にすることで、問題点が浮かび上がります。

また、引き継ぎ後の経営計画も具体的に書き込み、将来の計画を立てるための基盤を整えることができます。

現経営者と後継者の認識を合わせるため

事業承継計画書は、現経営者と後継者の間の “約束事” を明確にする役割があります。

話し合いのポイントは以下の通りです。

・会社の将来の方向性
・大切にしたい価値観
・従業員の方の処遇の方針
・設備投資への規模

現経営者と後継者が、細かく話し合い認識の違いを埋めていくことで、事業承継計画書に両者の合意事項を明確に書き込むことができます。

会社の将来像について共通の理解を持つことで、引き継ぎ後のトラブルを防ぎ、会社の発展につなげることができます。

関係者の協力を得やすくするため

事業承継の成功には、以下のような関係者の協力が欠かせません。

・家族や親族
・従業員
・株を持っている方
・取引先の会社
・銀行などの金融機関

事業承継計画を立てる際には、関係者から意見を集めて、合意事項を計画書に取り入れます。

取引先との関係性や従業員の取り扱いなど、会社の将来に関わる重要な事柄を明確に書くことで、引き継ぎ後の問題を減らすことができます。

後継者の教育に役立つため

後継者の育成には、長い時間を要するため、現経営者と後継者が経営目標や方針について一致することが大切です。

事業承継計画書を活用することで、後継者は事業に対する理解を深めることができます。

 

・会社の現状や課題を詳しく把握できる
・将来の経営計画について学ぶことができる
・経営者としての心構えを身につけられる

 

事業承継計画書は後継者の育成においても非常に重要な役割を果たします。

事業承継税制の特例を利用するため

親族内で事業承継を行う際には、相続税や贈与税といった税金の負担が発生しますが、事業承継税制の特例を利用することで税負担を大幅に軽減できます。

特例を利用するためには、以下のような要件を満たす必要があります。

 

・親族内での事業承継であること
・事業承継計画書(特例承継計画)を策定していること

 

特例を利用するための手順は次の通りです。

 

1. 事業承継計画書(特例承継計画)を作成する
2. 認定経営革新等支援機関(仕業の専門家)から指導と助言を受ける
3. 期限までに都道府県庁へ計画書を提出する

 

事業承継に伴う税負担を減らすためには、計画的に進めることが大切です。

事業承継計画を策定する手順

事業承継計画を策定する流れは以下の通りです。

 

①現状の把握

事業承継計画を作るには、まず自社の現状を正確に把握することが非常に重要です。

 

■会社の儲ける力

・売上高:会社が売り上げたお金の総額を見て、過去の推移と将来の見通しを確認する
・営業利益:売上から費用を引いた利益のこと、会社のもうけを表す
■会社の人と資産

・従業員数:今の従業員の数と、年齢構成から予想される将来の人数の変化をチェックする
・資産額:会社が持っている土地、建物、設備、現金、特許など含まれる資産の総額
・キャッシュフロー:お金の流れを表す指標のこと、今と将来の見込みを把握する
■会社の経営リスク

・競合他社との差:ライバル会社と比べて、自社の利益率がどのくらいなのか
・会社の負債:借金の額と返済の見通し
・世の中の動向:自社の事業に影響を与える社会の変化や技術の進歩などを考える
・自社の競争力:他社と比べた自社の良い点や悪い点を分析し、将来の見通しを立てる
■経営者の状態とお金

・経営者の健康:現経営者の健康状態や年齢を考え、突然の事態に備える
・経営者の株と資産:経営者個人が持つ株の割合や資産の内容を確認する
■後継者候補の状況

・会社の内外から、後継者候補を探す
・候補者の能力、やる気、経営者としての適性を評価する
■贈与や相続で起こり得る問題

・法定相続人(配偶者や子供など)の株の持ち分を確認する
・相続人同士の関係性を考え、相続争いが起きる可能性を見極める
・誰にどれだけの財産を相続するのかを決めて、トラブルを防ぐ
・相続税発生の有無と、その対策を考える

これらを詳細に分析することで、自社の現状を正確に把握でき、事業承継計画の土台が築けます

②関係者の意思確認

後継者を選ぶ際には、候補者の気持ちを丁寧に確認します。

そして、家族や幹部などの意見も取り入れ、誰もが納得できる選択をしましょう。

 

③承継方法・後継者の検討

事業承継には、大きく分けて3つの方法があります。

 

1.親族内承継:会社を経営者の家族や親戚に引き継ぐ方法

【メリット】

会社の文化や価値観を受け継ぎやすい
資金調達の必要性が低い
経営者と後継者の信頼関係が築きやすい

【デメリット】

経営能力のある人材が家族内にいない場合がある
相続税の負担が大きくなる可能性がある
世代交代が進まず、経営の刷新が難しくなるケースがある

 

2.親族外承継:会社の従業員や外部の人材に経営を任せる方法

【メリット】

後継者選定の幅が広がり、適材適所の人材配置ができる
新しい視点や発想が入る

【デメリット】

社内の信頼関係の構築に時間がかかる
報酬や株式の取得資金が必要
3.第三者承継(M&A): M&Aとは「合併と買収」の略で、会社を他の会社に売却する方法

【メリット】

後継者選びや育成の負担なく、比較的短期間で承継が完了する
売却益が得られるケースがある
経営資源(人材、資金、ノウハウなど)の獲得が期待できる

【デメリット】

会社の独自性が失われる可能性がある
従業員の雇用が不安定になりやすい
売却価格や条件が適切でない場合、不利益を被るリスクがある
自社の状況をしっかり分析し、会社の将来像、後継者の能力、資金面などを総合的に考えて、慎重に判断しましょう。

 

〖親族内承継〗

メリット

・従業員や取引先からの理解が得られやすい
・経営者としての教育を施す時間が十分に取れる

デメリット

・親族が必ずしも後継者になる意志があるとは限らない
・後継者の選定に偏りが生じる可能性がある
〖親族外承継〗

メリット

・候補者が多くいるため適任者が見つけやすい
・先代経営者の意向を守ってくれる可能性が高い

デメリット

・従業員の心理的な抵抗感が大きい場合がある
・後継者に株式を買い取る十分な資金がない
〖第三者承継(M&A)〗

メリット

・後継者を広く外部に求められる
・従業員の雇用を維持できることが多い
・事業の拡大や新分野への進出につながる可能性がある。

デメリット

・希望額で買手が見つかるとは限らない
・企業文化の違いから、社内の融和が難しくなるケースがある

 

④事業承継計画書の作成

事業承継計画書を作成する際の、ポイントは以下の通りです。

 

・経営理念を明確にする

会社の存在意義や大切にしている価値観を書き出し会社が目指す方向性を明らかにします

 

・経営計画を具体的に示す

事業内容や会社の戦略、将来の計画、達成したい目標や実行すべき行動を具体的に設定します

 

・売上目標を明確に定める

売上や利益など、達成したい具体的な目標を数値で設定します

 

・承継の時期を決める

事業承継を実行する具体的な時期を決定します
事業承継計画書は、専門用語を避けてシンプルな言葉で書き、補足情報を追加することで、より具体的なイメージを伝えることができます。

また、箇条書きやイラストを活用することで、読みやすくわかりやすくまとめることができます。

⑤事業承継計画表の作成

・事業承継計画書を作成する際の、流れ、ポイントは以下の通りです。

 

1.具体的な行動計画を立てる

例: 「3年後に後継者教育を完了する」「5年後に株式譲渡を実施する」など、事業承継のゴール設定します。

目標達成に必要な行動を洗い出し、いつまでに何をするのか無理のない現実的な行動計画を立てます。

 

2.行動を計画表に記入する

事業承継の指針となる行動計画を、具体的な行動内容と実行時期を含めて事業承継計画表に書き込みます。

 

3.行動を開始する

計画表に従って、一歩一歩着実に行動を開始します。

 

4.進捗状況を確認する

定期的に計画の進捗状況を確認し、予定通りに進んでいるか、遅れていないかをチェックします。

 

5.原因を分析する

進捗が計画通りでない場合は、その原因をしっかり分析します。

 

6.計画を修正する

状況の変化や進捗状況に応じて、必要に応じて目標時期や行動計画を柔軟に修正します。

 

事業承継計画表は、初めに設定した通りに進めることが望ましいですが、必要に応じて適切な調整を行いながら確実に進めていきましょう。

 

事業承継計画書の記載内容と書き方

事業承継計画書は、特定の書式に厳密に従う必要はありません。

中小企業庁や商工会議所、金融機関、事業承継センターなどが提供するひな形を参考に、自社の状況や計画に応じて、適切な項目を選択・追加・削除し、記入します。

 

前提状況

■親族関係

・法定相続人(家族)とのつながりはどうなっているか
・後継者に会社の株式をいつ、どのくらい渡すか

■承継予定時期

・ 現在の経営者の年齢を考える
・いつ頃会社の株式を譲渡するか

■会社概要

・ 資本金(会社の資金)はどのくらいか
・会社の始まりや歴史的変遷について

まずは前提条件を丁寧に理解し、その上で計画を立てていくことが大切です。

経営者の想いと後継者の想い

■経営者

・経営理念や会社に対する想い
・その想いがどのように生まれ、なぜそれを大切にしているか

■後継者
・経営者の想いをどう理解したか、どう応えようとしているか表明する

経営者と後継者が想いを共有し、受け渡しを大切にすることが、事業承継の成功に繋がります。

事業の現状分析と将来予測

■SWOT分析:会社の強み、弱み、機会、脅威を洗い出す分析手法

・強み(Strengths)
会社が持っている優れた製品、人材、技術力資源や能力のこと

・弱み(Weaknesses)
老朽設備、人手不足、資金力不足など会社の不足していること

・機会(Opportunities)
新市場開拓、新技術活用、規制緩和など利用できる外部の好機会のこと

・脅威(Threats)
新規参入者、代替品、為替変動などのリスクや外部の脅威のこと

 

この分析を通して、会社が抱える課題が明らかになります。そこから、弱みへの対策や危険を避ける方法を見えてきます。

後継者は会社の現状を正しく把握し、会社をより良い方向に導くことができます。

事業承継計画を策定する際の3つのポイント

事業承継計画を考えるときに大切なポイントは以下の通りです。

 

⦁ 最適な年齢・タイミングで計画を立て始める

事業承継は、会社の将来にとって極めて重要な課題ですが、緊急性が低い経営課題のため、検討自体を先送りされる傾向があります。

次の世代への承継にはある程度の意識があっても、財産の承継に関しては相続税の評価を聞いた程度で終わってしまうこともあります。

しかし、健康面の不安や自社の株式評価も考慮し、経営者の方は60歳近くなったら自分の株式や資産をどうするかまで具体化し、しっかりと計画を立てる時期です。
決算後に計画を立てることが望ましいですが、遅れると承継手続きが複雑化する恐れもあるため、タイミングを逃さないように注意しましょう。

 

誰が見ても分かるように記載する

事業承継は会社全体に関わる大きな出来事であり、従業員の皆さんや取引先の企業に対しても、しっかりと理解してもらう必要があります。

特に後継者が第三者の場合、計画書の内容を頼りに会社を判断することになります。

事業承継計画書は、会社がどういう状態なのか、これからどうしていくのか、できる限り具体的で分かりやすい内容にする必要があります。

現経営者しか知り得ない情報も、隠すことなく開示しておくべきです。

 

現経営者だけで策定しない

事業承継計画書は現経営者だけでなく、会社を継いでいく後継者の方や、会社で働く従業員のためにも作られるものです。

経営者一人で作成すると、法務や税務面での見落とす恐れがあります。

後継者や従業員らと話し合い、弁護士や税理士などの専門家に相談しながら、客観的な計画を立てることで、より確かな内容と充実した計画になります。

事業承継計画の策定でお悩みなら、専門家である「この街の事業承継」までご相談下さい。

事業承継は会社の永続的な発展にとって極めて重要な経営判断です。

事業承継計画書を作成は必須であり、現経営者と後継者の方向性を合わせるだけでなく、関係者間の利害の対立や税制面でのデメリットを回避できます。

また、お取引先や金融機関からの信頼も得やすくなります。

しかし、事業承継計画は専門性が高く、専門家の適切な関与が不可欠です。

計画策定から実行に至る全過程で、的確なサポートを受けることで、リスクを避け、安心して計画を進めることができます。

事業承継のこと、わかりやすくお伝えします。

熊本で25年 弁護士の西田幸広です。

事業承継~課題~

中小企業は日本経済を支える柱ですが、後継者不足が深刻化しています。

少子高齢化の進行に伴い、今後も廃業を選択する中小企業が増加すると予想されています。

中小企業庁もこの問題に対し対策を呼びかけ、様々な支援策を打ち出しています。

この記事では、事業承継の現状や課題、そして支援制度についてわかりやすく解説していきます。

 

事業承継における中小企業の現状

 

経営者の高齢化

中小企業庁の調査によると、経営者の平均年齢は年々上昇しており、現在では66歳を超えています。

後継者のいない企業は全体の65%にも上り、高齢化の影響はますます深刻化しています。

この問題は、「2025年問題」と呼ばれています。

(2025年問題:多くの団塊の世代の経営者が一斉に75歳を迎え、後継者不足で多くの中小企業が廃業に追い込まれるという現象)

これは日本全体の課題であり、この状況を打破し、日本経済の持続可能な成長を保つためには、「次の世代に引き継ぐ」という考えを共有し、具体的な対策を打つことが求められています。

 
後継者不足の問題

経営者の高齢化や少子化の影響で、会社を継いでくれる後継者を見つけることがますます困難になっており、休業や廃業する中小企業が増えています。

これは、経営が黒字であろうと赤字であろうと関係なく「引き継いでくれる後継者いないから」という理由です。

子どもや家族に会社を継いでもらいたいという願いもありますが、「会社を継ぐのは大変そう」という不安や、都会への進出を選ぶこともあります。

以前は親から子へと会社を譲る親族内承継が一般的でしたが、近年はその数も減少しています。

 

中小企業が抱える事業承継の8つの課題

 

中小企業の事業承継が進まない理由として、以下のような8つの課題があります。

 

①後継者の選任・育成

・適任者を見つけにくい
経営スキル、リーダーシップ、業界知識など、たくさんの条件を満たす人材を見つけるのが難しい。

・後継者の能力や経験の不足
選ばれた後継者でも、実際に経営をまかせられるだけの経験や知識が足りないことがある。

・会社の全体像の把握
会社の持続可能な成長のために会社の全体像をよく理解し、しっかりとした将来計画を立てられる力が求められる。

・会社維持への準備不足
後継者が決まっても、資金調達や法的手続きなど、会社を引き継ぐための準備が不十分なことがある。

こうした課題を解決するには、計画的な後継者育成プログラムの実施や、外部の専門家のアドバイスを取り入れながら、着実に準備を進めていきましょう。

②事業承継による税負担

・相続税・贈与税の負担増
事業承継では相続や贈与が発生するため、高額な税金がかかる。

・事業用資産の評価が難しい
土地や建物、機械設備など会社の資産の適正な値段を決めるのが難しく、値段が過大になると、相続税の負担がさらに大きくなる。

・資金調達の困難さ
事業承継に伴う相続税等の税金の支払いは高額になる場合があり、十分な資金を準備するのが難しいことが多い。

・本業への影響が心配
税金対策に時間とお金をかけすぎると、本来の事業の運営が疎かになってしまうリスクがある。

・一時に多額の税金を避ける対策
遺産分割の活用や納税の延期制度の活用など、一度に多額の税金を払わずに済む方法を考える必要がある。

 

こうした税負担の問題に対しては、早めに専門家に相談し、最適な方法でしっかりと納税対策を立てましょう。

③個人保証の引き継ぎ

・経営者個人の借金の保証
会社の借り入れに個人で保証をつけていることが多く、個人保証を次の経営者にどうやって引き継ぐかが問題になる。

・貸し手の了解が必要
個人の保証は、貸し手の了解なしに後継者に引き継げないため、貸し手の了解を得るための話し合いが必要である。

・後継者に資金不足
後継者にお金がない場合、貸し手が了解してくれない場合があり、後継者に新たな保証をつけてもらうのが難しくなる。

・前の経営者の保証解除
会社を引き継いでも、前の経営者の個人保証が残ることがあり、前の経営者の保証を完全になくすのは難しい場合がある。

・お金の計画の見直し
個人保証があるかないかは、会社の資金計画に大きな影響を与え、追加でお金を借りることにもなるかもしれない。

 

このように、個人保証の引き継ぎは、後継者のお金、貸し手との交渉、前の経営者の保証解除など、いろいろな問題がからむ難しい課題です。

④従業員の理解と雇用維持

・従業員の不安
今までと違う人が経営者になることへの不安や抵抗感があり、従業員が納得せず反対する可能性がある。

・労働条件への不安
給料が下がる、休みが減る、残業が増えるなど、労働条件の悪化を恐れる。

・仕事内容の変更への戸惑い
会社の経営方針が変わると、従業員の仕事内容が大きく変わる可能性へ不安や戸惑いが生じる。

・経営方針の転換への不信感
会社の経営方針が、従業員と合わなければ、モチベーションの低下にもつながる。

・優秀な人材の流出リスク
労働条件の悪化や経営方針への不満から、優秀な従業員が会社を辞めてしまうこともある。

特に中心になって働いてくれている人が辞めると、会社の成績や引き継ぎにも響く可能性がある。

 

従業員の理解と協力を得るために、従業員とのコミュニケーションを大切にし、不安を取り除く努力をしましょう。

一緒により良い会社を作っていく姿勢が何より大切です。

 

⑤取引先の理解

・事前の説明
従業員と同様、取引先にも事前に事業承継について説明し、理解を得ることが重要である。

・適切な周知
事業承継の予定を適切なタイミングで周知し、取引先に不信感を抱かせない。

・慎重な情報管理
事業承継に伴う情報漏洩に注意し、取引先との関係悪化や譲渡交渉への悪影響を避けるため、慎重な情報管理が求められる。

・信頼関係の維持
事業承継後も、新しい経営体制のもとで取引先との良好な信頼関係を維持・構築することが重要。

・承継後の関係継続
事業承継完了後、新経営者は取引先との関係維持に努め、継続的な信頼関係を築いていくことに努める。
取引先の理解と協力なくして、事業承継の成功はありません。

早い段階からの説明と信頼関係の維持、引き継ぎの後も丁寧な対応を心がけましょう。

⑥自社株の買い取り資金不足

・株の値段が高くなる
次の経営者は、前の経営者から会社の株を買い取る必要があるが、会社の業績がよければ株式の評価額が高額になり、買い取るのにたくさんのお金がかかる。

・資金調達が難しい
中小企業は自社のお金だけでは株を買い取れないことが多く、外部から資金を調達する方法を検討しなければならない。

・借入れによる負債増加
株を買うお金を借りると、会社の借金が増えてしまうため、借金の返済で会社の財務状況が悪くなるリスクがある。

・株が薄まる可能性
増資して株を買うお金を調達すると、既存株主の保有割合が下がり、経営権や株主の権利に影響が出る。

このように、自社株の買取資金の確保は、資金面だけでなく経営権や株主関係にも影響を与える重大な課題です。

早めに専門家に相談し、適切な資金計画を立てるとともに、株主同士でよく話し合い、納得のいく解決策を見つけていくことが大切です。

⑦名義株の問題

■名義株とは?

会社の株を経営者個人の名前で持っている状態のことです。

本来、株式会社の株は会社という法人が発行するもので、個人の持ち物ではありません。

しかし、会社を設立する時や、お金を集めるために株を発行する際に、経営者自身の名前で株を持つことがあります。

■名義株の問題点

・名義株の実態把握が困難
会社全体の株の数や内容を正確に把握するのが難しい。

・名義株所有者の把握が大変
-長年放置された名義株は、所有者の住所が不明で連絡が取れない場合、特定が困難である。

・株主権の行使が不明確
-名義株は、株主権を誰が実質的に持つのかわかりにくく、経営の意思決定に問題が生じるリスクがある。

・株式評価の難しさ
株主権の所在がわからないと株式の評価額が過大になる恐れがあり、相続税の負担が重くなる。

・相続対策の不備
個人名義の株は経営者個人の財産とみなされ、相続対策が不十分だと、相続争いに巻き込まれ会社運営に支障が出るリスクがある。

・株式名義の書き換えが必要
経営者から後継者への株式引継ぎには、名義書き換えが必須だが、手続きが困難な場合がある。

名義株の存在は事業承継を複雑にし、様々な問題を引き起こすリスクがあります。

名義株の実態を正確に把握し、専門家と一緒に計画的に名義変更を進めていきましょう。

 

■名義株問題への対策とは?

・株を後継者に生前に贈る
経営者が持っている自社株を、後継者に生きているうちに贈る場合、贈与税はかかるが、経営権をまとめることができる。

・経営者の味方になる株主を集める
経営者の考えに賛成して、一緒に株主としての権利を行使してくれる株主を確保する。
(創業者の親戚や、長年の取引先に株を持ってもらうのも一案である)

・遺言書を準備する
経営者自身が遺言書を書いて、経営者が亡くなった後もスムーズに株を引き継げるようにする。

・株主同士で取り決めを交わす
株主同士で契約を結び、株主の権利と義務や株の値段の決め方など、株の売買制限や引き継ぎ方法を決めておく。

早めの対策で、名義株によるトラブルは未然に防ぐことができます。

株の引き継ぎ方法やタイミングは、専門家に相談しながら、慎重に検討しましょう。

 

⑧経営権の分散リスク

■経営権が分散するとは?

会社の株を複数の株主が分けて持っている状態であり、それぞれの株主が経営に対する発言権を持つ。

 

■経営権分散の問題点

・意思決定の難航
株主が多すぎると、経営方針を決めるのが難しくなり、重要な決定が遅れたり、まとまらなかったりする恐れがある。

・経営の安定性の低下
株主同士の意見が対立すると、経営の一貫性を保つことが難しくなり、会社の安定した運営ができなくなる。

・事業成長の阻害
株主の間で意見が合わないと、新しい事業への投資や拡大が進まず、チャンスを逃して競合他社に後れを取ってしまう。

・後継者選定の困難化
たくさんの株主の利害関係を調整しながら、後継者を選ぶのは難しいため、引き継ぎがうまく進まない。

・優秀な人材の流出
経営が混乱すると、優秀な社員が会社を辞めてしまうことがあり、人材の流出は、会社の競争力の低下につながる。
経営権が分散すると、会社の舵取りがうまくいかず、様々な悪影響が出る可能性が高くなります。

このリスクを避けるためにも、早めの対策が必要不可欠です。

 

■経営権の分散への対策とは?

・株を後継者に集中させる
経営者が持っている株を、後継者に生前に贈ったり、後継者に買い取ってもらうなど、できるだけ多くの株を後継者に集める。

・株主間で合意形成
株主同士で約束を交わして、会社の進む方向や株の扱いについて意見をまとめておくこと。

・後継者を早めに育成
後継者を早い段階で決めて、計画的に経営能力を身につけさせること。

経営権の分散リスクは、放っておくとどんどん大きくなってしまいます。

事業承継の本格的な準備に入る前に、早めにこれらの対策に取り組みましょう。

事業承継の課題を解決できないとどうなるのか?

日本の経済において中小企業は多くの割合を占め重要な役割を果たしていますが、高齢化に伴う後継者不足が深刻な課題となっています。

事業承継の問題が放置されれば、多くの雇用と長年培ってきた技術、知識が失われる恐れもあり、中小企業の衰退は経済全体に大きな影響を与える可能性があります。

これは、日本全体の課題となっており、中小企業庁も対策を呼びかけています。

事業承継における課題の解決策

次の世代への事業の引き継ぎや成長を促進する有力な手段としてM&Aが増加しています。

 

M&Aによる事業承継

事業承継の課題を解決するために、近年注目されているのが、M&Aです。

日本国内のM&Aの件数は増加傾向であり、事業承継型のM&Aについても年々少しずつ増加しています。

 

・M&Aとは

M&A(合併と買収)とは、ある会社が他の会社を買ったり、一緒になったりすることで合併と買収の略です。

事業承継の場合、後継者のいない会社が、他の会社に買収されることを指します。

 

・後継者不足の問題を解決

事業を引き継ぐ意欲と能力のある会社に売ることで、事業の存続と発展が可能になります。

 

【メリット】

・創業者利益を確保
M&Aで会社を売却することで、創業者は株の対価として利益を得ることができ、長年の努力の成果を、引退後の生活資金や資産形成に活用できる。

・経営者の個人保証を外すことができる
売却により、経営者が銀行に対して負っている個人保証を外すことが可能になり、経営者の大きな負担を軽減し、安心して引退できる。

・従業員の雇用を守る
事業が存続することで、従業員の雇用を守ることができ、従業員の生活の安定と地域経済の維持に貢献する。
後継者不足は深刻な課題ですが、事業の継続と持続的な発展を支援し、M&Aを通じてこの問題を少しずつ解消していく動きが期待されています。

 

公的な支援制度の活用

中小企業や小規模事業者の引き継ぎを支援する公的な支援制度の活用については以下の通りです。

 

経営承継円滑化法

経営承継円滑化法は、中小企業が事業を次の世代に引き継ぐ際の負担を軽減するための法律です。

 

【金融支援】

・銀行からの低金利融資
後継者が中小企業の事業を引き継ぐ際に利用できます。
都道府県知事の認定を受けた銀行から、低い金利でお金を借りられるため、返済負担が軽減されます。

・信用保証制度の利用
この制度を活用すると、通常よりも良い条件で信用保証を受けることができます。

・日本政策金融公庫からの低金利融資
後継者が中小企業の事業を引き継ぐ際に利用できます。
銀行よりもさらに低い金利でお金を借りられるため、返済負担が軽減されます。

 

2つの違いは?

都道府県知事が認めた銀行からの低金利融資は、特定の銀行が提供する低金利のお金で、信用保証制度はその銀行の条件を良くするものです。

日本政策金融公庫からの低金利融資は、国が提供するさらに低い金利のお金です。

 

【事業承継税制】

事業承継税制は、中小企業が事業を引き継ぐ時の税金の負担を軽くするための制度です。

・相続税・贈与税の支払い延期
後継者が先代から株を相続や贈与でもらった場合、税金の支払いを延ばすことができます。

・相続税・贈与税の免除
一定の条件を満たすと、後継者は、相続税・贈与税の免除が受けられます。

一定の条件とは?

・後継者が先代から事業を引き継ぐ場合であること
・後継者が事業の経営権を引き継ぐ意思を明確に示していること
・後継者が一定期間、事業を継続して経営することを約束すること
・事業の引き継ぎにより雇用が維持されること

税金の延期や免除は、後継者が事業を引き継ぐ際の負担を軽減してくれます。

しかし、条件や免除の対象となる税金の額は、法律や税務の決まりによって異なるため、詳細な条件や免除の対象については税務署や専門家へ相談しましょう。

 

事業承継・引継ぎ補助金

 

■事業承継・引継ぎ補助金とは?

国からもらえるお金で、事業を引き継ぐときの費用を支援する制度のこと。

・費用の半分までを国が支援してくれる
・最大で250万円から500万円の補助金がもらえる
・条件を満たすと最大で200万円の追加支援も可能
・補助率は経費の半分まで

詳しいことや申請の手続きは、税務署や専門家に相談してみましょう。

 

経営者保証に関するガイドライン

■経営者保証に関するガイドラインとは?

個人保証を減らして、事業を引き継ぐときのリスクを小さくするルールのこと。

・会社の財務状態や返済能力が良ければ個人保証をなくせる可能性あり
・保証金額も会社の状況に合わせて変更可能

こちらも、詳しいことや申請の手続きは、税務署や専門家に相談してみましょう

事業承継の課題解決のための相談先

事業承継の課題解決には、専門家のアドバイスが重要です。

 

以下は、課題ごとにどの専門家に相談すれば良いか整理したものです。

[ 事業承継全般に関する相談  ]  商工会、商工会議所、中央会、金融機関、 士業など専門家、よろず支援拠点

[ 後継者探しに関する相談      ]  事業承継・引継ぎ支援センター

[   相続税・贈与税に関する相談  ]  税理士・弁護士

[   株価に関する相談    ]   士業など専門家

[  資金調達に関する相談   ]   金融機関、信用保証協会

[  個人保証に関する相談   ]   金融機関、中小機構

[  債務整理に関する相談   ]   金融機関、中小企業再生支援協議会、 弁護士

 

事業承継の課題やお悩みは、「この街の事業承継」にご相談ください!

中小企業庁の調べでは、中小企業・小規模事業者の皆様にとって、M&Aについて共感が得られていない状況が事業承継の進まない原因の一部とされていました。

以前は複雑で難しいイメージがあったかもしれません。

しかし、近年では日本の経済を支える手段として認識され、事業承継型のM&Aも増加しています。

次の世代への引き継ぎを手助けするため、国も手厚い支援を行っています。

事業承継のこと、M&Aのこと、わかりやすく説明いたします。

熊本で25年、弁護士の西田幸広です。

西田ブログ