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顧問契約~建設業の工事代金未払い・契約書なしへの備え~

2026/09/16 08:49|カテゴリー:建設業顧問契約

こんにちは。弁護士法人Si-Lawです。

「工事は終わったのに代金が振り込まれない」「契約書を交わしていないから、もう請求できないのではないか」——建設業の経営者の方から、最も多くいただくご相談のひとつです。結論から申し上げます。契約書がなくても工事代金は請求できます。契約は注文と承諾の合意があれば成立し、契約書はその合意を証明する「証拠のひとつ」にすぎないからです。

ただし、契約書がない案件は「証拠の集め方」と「動き出す早さ」で結果が大きく変わります。そして、そのどちらも未払いが起きてから慌てて整えるのでは遅いのが実情です。だからこそ建設業では、トラブルが起きてから弁護士を探すのではなく、顧問弁護士に日常の書式と現場ルールを整えてもらう「予防」が効きます。

この記事では、熊本県八代市で中小企業の顧問弁護士を務める立場から、建設業の工事代金未払いへの対処法と、顧問契約という形で弁護士を使い倒す方法を、実務に沿って解説します。

建設会社の事務所で弁護士が社長と現場監督に工事請負契約書を見せて助言しているイメージ

建設業で工事代金の未払いが起きる3つの構造的な理由

建設業の未払いは、取引先が特別に不誠実だから起きるわけではありません。業界の商慣行そのものに、未払いを生みやすい構造があります。原因を知っておくと、予防の打ち手も見えてきます。

理由1 多重下請構造で支払いの連鎖が切れる

発注者から元請、一次下請、二次下請へと工事が流れる多重下請構造では、上流のどこか一社が資金繰りに詰まると、その下の階層すべてで入金が止まります。自社には何の落ち度もないのに、二次・三次下請ほど「気づいたときには相手に払う金が残っていない」状態に陥りやすいのです。

近年は県外の元請や一次下請と取引する地場業者も増えました。相手の経営状況が見えにくい取引ほど、与信管理と早期の法的対応が重要になります。

理由2 追加工事・設計変更が口頭で進む

現場では「ついでにこれもお願いします」「ここは変更で」という口頭の指示が日常的に飛び交います。職人気質の現場ほど、いちいち書面を求めるのは水くさいという空気もあるでしょう。

しかし請求段階になると、相手は「それは当初の見積りに含まれているはずだ」「そんな指示はしていない」と言い出します。追加工事分だけで数百万円が宙に浮くことも珍しくありません。未払いトラブルの多くは、実はこの追加工事をめぐる認識のズレです。

理由3 「手直しがある」を理由に支払いを止められる

もうひとつ多いのが、契約不適合(いわゆる瑕疵)を理由にした支払拒否です。軽微な手直し箇所を挙げて、代金全額の支払いを保留されるケースがあります。

本来、契約不適合があっても代金請求権そのものが消えるわけではなく、相手は修補や損害賠償を求められるにとどまります。手直し相当額だけを控除して残額は支払うのが筋であり、「全額止める」という対応には正面から反論できる場合が多いのです。

契約書なしの工事代金未払いでも請求できる理由

請負契約は口頭でも成立する

請負契約は、「この工事をこの金額でお願いします」という申込みと、「わかりました」という承諾があれば成立します。書面は成立要件ではありません。したがって、契約書を交わしていないという一点だけで請求を諦める必要はまったくありません。

問題になるのは、成立したかどうかではなく、「どんな内容で合意したのかを、後から第三者に示せるか」です。裁判所は当事者の記憶ではなく、残っている資料から合意内容を認定します。

契約書がないときに集めるべき代替証拠

契約書がなくても、次のような資料を積み上げれば合意内容を立証できます。一つひとつは断片でも、組み合わせると十分な説得力を持ちます。

証拠の種類 何を立証できるか
見積書・請求書の控え 工事内容と代金額の提示。相手が異議なく受領していれば合意の裏づけになる
注文書・注文請書、発注メール 発注の事実と時期。断片的なメールでも決定的な証拠になり得る
担当者とのメール・LINE・チャット 追加工事の指示、工期変更、金額交渉の経緯
作業日報・出面帳・施工写真 実際に工事を施工した事実と工事量。代金額算定の基礎になる
打合せ記録・議事録 現場での取り決め内容。自社作成のメモでも日付入りなら価値がある
一部入金の履歴 相手が債務の存在を認めた証拠(時効の更新事由になる場合がある)

証拠は「工事中」にしか作れない

ここが最も重要な実務のポイントです。もめてから作れる証拠はほとんどありません。施工写真も日報も、工事が終わってしまえば後から作り直せないのです。

顧問弁護士を持つ最大の利点は、平時に「この現場は書面を残しておくべきです」と助言を受けられることにあります。未払いの気配を感じた時点で相談できれば、証拠を意識的に固めながら工事を進められます。

工事代金未払いへの対応——回収の5ステップ

実際に未払いが起きたときは、次の順序で動きます。いきなり訴訟ではなく、相手の状況と回収可能性を見ながら段階を上げていくのが実務です。

工事代金未払い 回収の5ステップの図解

ステップ1 証拠の保全と時効の確認

まず社内に散らばった資料を集めます。担当者の携帯に入っているLINE、現場のデジカメの写真、手書きの日報——退職した社員が持っていて回収できなくなる前に確保します。あわせて、その債権がいつ発生したものかを確認します。

ステップ2 交渉で支払計画を作る

相手に支払う意思と資力があるなら、分割払いでも回収できたほうが早く確実です。その際は必ず支払計画を書面(合意書・債務承認弁済契約書)にすること。書面化すれば債務の存在が確定し、後の手続きが格段に楽になります。公正証書にしておけば、不履行の際に訴訟なしで差押えができます。

ステップ3 内容証明郵便による催告

交渉が進まなければ、弁護士名義の内容証明郵便を送ります。これには二つの効果があります。ひとつは、本気であることが相手に伝わり支払いにつながること。もうひとつは、催告から6か月間は時効の完成が猶予されるという法的効果です。

ステップ4 仮差押えで財産を押さえる

相手の資金繰りが危ない場合、訴訟の判決を待っていては財産が消えてしまいます。そこで先に相手の預金や売掛金を仮に差し押さえる民事保全(仮差押え)を使います。

仮差押えには裁判所へ担保金を積む必要があり、請求額の一定割合を用意しなければなりませんが、取引銀行の口座を押さえられた相手が急に支払いに応じることは実務上よくあります。

ステップ5 支払督促・訴訟で債務名義を取る

最終的には、強制執行の前提となる債務名義を取得します。相手が争ってこないと見込まれるなら手数料の安い支払督促、契約内容そのものを争ってくるなら訴訟を選びます。支払督促は相手が異議を述べると通常訴訟へ移行する点に注意が必要です。

建設業法という強い味方——支払期日と書面義務

建設工事に下請法は適用されない

意外に知られていないのですが、建設工事の請負には下請法(2026年1月施行の改正で中小受託取引適正化法へ改称)は適用されません。建設工事については建設業法が規律する仕組みになっているためです。

「下請法違反ではないか」と相談されることがありますが、建設工事の場合に持ち出すべき根拠は建設業法です。ここを取り違えると交渉の説得力が落ちてしまいます。

元請から下請への支払期日は法律で決まっている

建設業法は、下請代金の支払期日について明確なルールを置いています。「うちは入金があってから払う慣習だ」という説明が通らない場面があるということです。

場面 支払期限
元請が注文者から代金を受け取ったとき(建設業法24条の3) 受領日から1か月以内で、かつできる限り短い期間内に下請代金を支払う
特定建設業者が一般建設業者等に発注した場合(同法24条の6) 下請からの引渡しの申出日から50日以内。注文者からの入金の有無を問わない
一人親方など個人に業務委託した場合(フリーランス取引適正化法) 給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内

特に24条の6は強力です。特定建設業者である元請は、発注者から入金がなくても、引渡しの申出から50日以内に下請代金を支払わなければなりません。交渉の場でこの条文を示すだけで、相手の態度が変わることがあります。

契約書面の交付義務と行政への申告

建設業法19条は、請負契約の当事者に対し、工事内容・請負代金の額・工期・前金払や出来形部分への支払いの定めなど法定事項を記載した書面を作成し、相互に交付することを義務づけています(電子契約も可)。契約書を作っていないこと自体が、実は元請側の法令違反でもあるのです。

また、悪質な支払遅延については、国土交通省の「駆け込みホットライン」や都道府県の建設業担当部署への申告という選択肢もあります。特定建設業者が下請代金を払わない場合、行政が立替払いなど適切な措置を勧告できる仕組みも設けられています。ただし行政は個別の代金取立てまではしてくれないため、民事の回収手続と併走させる判断が必要です。

追加工事でもめないための現場ルール

その場で「可視化」する習慣をつくる

追加工事の指示を受けたら、その日のうちに一通メールを送る。それだけで結果が変わります。

  • 「本日◯◯様よりご指示いただいた△△の追加施工について、別途費用◯◯円程度を見込んでおります。進めてよろしいでしょうか」
  • 相手から返事がなくても、「異議がないので着手します」と続報を入れておく
  • 着工前・施工中・完了後の写真を日付入りで残す

相手が返信しなかったという事実自体が、後になって「指示していない」という主張を弱めます。難しい書式は要りません。現場監督の誰もが使える定型文を一つ用意しておくことが肝心です。

契約書のひな形を自社仕様に整える

元請から渡される契約書をそのまま押印している会社は多いものです。しかし、支払時期、追加変更時の精算方法、契約不適合責任の期間、遅延損害金、工期延長の取扱いといった条項は、見直す価値があります。

資材価格が動く局面では、一定以上の値上がりが生じた場合に請負代金の変更を協議できる旨の条項(スライド条項)を入れておくと、自社を守る盾になります。

時効と倒産リスク——「もう少し待つ」が一番の損

工事代金債権の消滅時効

2020年4月1日施行の改正民法により、債権の消滅時効は「権利を行使できることを知った時から5年」「権利を行使できる時から10年」のいずれか早い方に統一されました。通常の取引では、支払期日から5年と考えておけばよいでしょう。改正前に発生した債権には旧法の短期消滅時効が適用される場合があるため、古い未収金は個別の確認が必要です。

5年と聞くと余裕があるように感じますが、実務で本当に怖いのは時効よりも相手の倒産です。

相手が危ないときに打てる手

取引先の資金繰りが悪化している兆候(支払いの小口分割、手形のジャンプ依頼、担当者が電話に出ない、他社への支払遅延の噂)を掴んだら、次の手を検討します。

  • 相殺:こちらも相手に支払う債務があるなら、相殺すればその分は確実に回収したのと同じ効果になります
  • 仮差押え:預金・売掛金・重機や不動産を早い段階で押さえる
  • 引渡しの留保:工事目的物や資材について、支払いを受けるまで引渡しを拒める場合があります
  • 債権譲渡:相手が持つ発注者への請負代金債権を譲り受ける

いずれも、破産手続が始まってからでは使えません。回収率は動き出した早さにほぼ比例します。「取引が続いているから強く言えない」という気持ちは分かりますが、払わない相手との取引を続けることは、損失を自ら拡大させる行為でもあります。

熊本・八代の建設業が顧問弁護士を持つ意味

地場の建設業を取り巻く環境が変わっている

熊本県内では、半導体関連の設備投資や災害復旧・治水関連の工事を背景に、建設需要が高い状態が続いています。一方で、県外資本の元請や初めて取引する一次下請と組む機会も増えました。

長年の付き合いがある地元同士の取引なら、口約束でも大きな問題は起きにくかったかもしれません。しかし相手が変われば商慣行も変わります。八代周辺でも「県外の元請から入金が止まった」「工事は終わったのに検査を理由に引き延ばされている」というご相談が実際に増えています。

加えて、時間外労働の上限規制が建設業にも適用され、工期と人員の管理はいっそうシビアになりました。工期遅延の責任、資材高騰分の負担、一人親方への外注の扱いなど、契約書一枚の書きぶりが利益を左右する場面が確実に増えています。

顧問契約なら「工事が始まる前」に相談できる

単発の依頼と顧問契約の最大の違いは、相談のタイミングです。

  単発の依頼 顧問契約
相談する時期 未払いが確定し、もめてから 契約前・着工前・気配を感じた時点
証拠 残っているもので戦うしかない 意識して作りながら工事を進められる
契約書 相手のひな形のまま押印している 自社の書式を整備し、重要案件は事前確認
費用感 案件ごとに着手金・報酬 月額で相談し放題。日常の質問に費用の心配がない
相談内容 その案件のみ 労務・許可・下請管理・事業承継まで一括

「こんな小さなことで弁護士に電話していいのか」とためらう時間こそが、建設業では最も高くつきます。顧問契約は、その心理的ハードルを取り払うための仕組みだとお考えください。

建設業の顧問弁護士に任せられること

工事代金の回収は入口にすぎません。中小の建設会社では、法務課題が同時多発的に起こります。

  • 工事請負契約書・注文書注文請書・基本契約書のリーガルチェックと自社ひな形の整備
  • 追加工事・設計変更時の合意書式づくりと現場への落とし込み
  • 未収金の督促、内容証明の作成、保全・訴訟対応
  • 残業代・労働時間管理・安全配慮義務、労災が起きたときの初動
  • 一人親方・外国人材の受入れに関する契約と労務の整理
  • 近隣住民からの騒音・振動クレーム、施主との紛争対応
  • 許可・経審に影響する法令違反リスクの点検
  • 経営者の高齢化に伴う事業承継、個人保証、M&Aの検討

当事務所は八代市に拠点を置き、熊本県内の中小企業の顧問先を多数お預かりしています。現場のことが分かる距離感で、電話一本で「これ、どうしたらいいですか」と聞いていただける関係をつくることを大切にしています。

まとめ

  • 契約書がなくても請負契約は成立しており、工事代金は請求できる。勝負は証拠の量と質で決まる
  • 見積書・発注メール・LINE・施工写真・日報・一部入金の履歴が、契約書の代わりになる
  • 証拠は工事中にしか作れない。追加工事の指示は当日中にメールで可視化する
  • 回収は「証拠保全→交渉→内容証明→仮差押え→支払督促・訴訟」の順で段階を上げる
  • 建設工事に下請法は適用されず、建設業法が根拠になる。24条の3(1か月以内)、24条の6(50日以内)は交渉の武器になる
  • 消滅時効は原則5年。しかし本当の期限は相手が倒産する日であり、早く動いた会社ほど回収できる
  • 顧問契約の価値は、もめる前・契約前の段階で気軽に相談できることにある

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事情に応じた判断は専門家へのご相談をおすすめします。企業法務でお悩みの際は、弁護士法人Si-Law(八代市)へお気軽にご相談ください。