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労務・労働問題13組織秩序維持

ここでは、組織秩序維持に関する注意点について説明します。

競業避止義務

競業避止義務とは、社員が会社と競合する企業に就職したり、自ら競合する事業を行わない旨の義務をいいます。

労働契約における信義誠実義務(労働契約法3条4項)に基づく付随義務として、一定の範囲で競業避止義務が認められています。

もっとも、競業避止義務は、社員にとっては憲法で保障された職業選択の自由に対する制約ですから、無制限に認められるものではありません。

競業避止義務

1.退職後の競業避止義務違反

退職後の社員に対しては、労働契約が終了している以上、労働契約の付随義務としての競業避止義務は及ばないのが原則です。

もっとも、特約等の契約上の根拠があれば例外的に退職後の社員に対して競業避止義務を負わせることは可能と考えられています。

ただし、その場合も、社員の自由意志に基づくものか否か、必要かつ合理的な制限か、競業行為を禁止する目的・必要性、退職前の社員の地位・業務、競業が禁止される業務の範囲・期間・地域使用者の保有している特有の技術や営業上の情報等を用いることによって実施される業務に限られているか、代償措置の有無など、諸事情を総合考慮し、必要かつ合理的な範囲での制限であることが必要と解されています。

2.在職中の競業避止義務違反

社員が、労働契約が存続している在職中は、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務があるとされています。

もっとも、具体的にどのような行為が競業避止義務に抵触するかはケーズバイケースであり、たとえば、在職中から競業会社の設立準備を行ったり、引き抜き行為を積極的に行ったり、競業会社に秘密情報を漏洩する等、会社の利益を著しく害する悪質な行為については、競業避止義務違反として懲戒処分の対象となったり、退職金の不支給・減額事由とされています(日本コンベンションサービス(損害賠償)事件 最高裁平成12年6月16日労判784号)。

社員の退職後、競業をすることを防ぐために、就業規則で同業他社に転職した場合に退職金の不支給・減額を規定している会社が見受けられます。

かかる退職金不支給・減額に関する就業規則等がない場合、退職金の不支給・減額は認められないと解されていますが、かかる就業規則等があったとしても、必ずしも文言どおり不支給・減額が認められるとは限らないことに注意が必要です。

秘密保持義務

社員は、その在職中、労働契約に付随する義務として、知り得た企業情報について秘密保持義務を負うものとされています(労働契約法3条4項)。

1.「秘密」の範囲

「秘密」情報とは、非公知性のある情報であって、社外に漏洩することにより企業の正当な利益を侵害するものをいいます。

具体的な「秘密」の範囲については、業態に応じて個別具体的に判断されますが、顧客等からの信用等も「秘密」情報に含まれるものと解されています。

2.退職後の秘密保持義務

労働者の秘密保持義務は、労働契約上の信義則又はこれに付随する誠実義務に基づくものであるため、退職後も当然にかかる秘密保持義務を負うものではありません。したがって、社員の退職後も秘密保持義務を課すためには、契約上の根拠が必要となります。

もっとも、秘密保持義務も、退職後も秘密保持義務を課す必要性が乏しかったり、秘密保持義務の範囲が過度に広範であったりする場合には、これを定める就業規則等の定めは無効となり得ます。

なお、とくに就業規則等に退職後の秘密保持義務に関する明示の規定がない場合には、労働契約終了後は付随義務としての秘密保持義務も同時に終了すると考えられるため、原則として社員が秘密保持義務を負うことはないと考えられています。

3.在職中の秘密保持義務

かかる在職中の秘密保持義務の有無は、就業規則に規定があるか否かを問わないものと解されていますが、就業規則に秘密保持義務が規定され、労働契約の内容となっている場合には、当該秘密保持義務違反に対して、懲戒処分や損害賠償請求等の対象となり得ます。

ただし、秘密保持義務は、第三者への企業情報の提供を禁止するものであり、当該情報が記録された資料等を社外へ持ち出したことをもって直ちに秘密保持義務違反となるものではないことに注意が必要です。

また、形式的には秘密情報の第三者への開示ではあるものの、弁護士に相談するために企業情報を無断で開示することは、弁護士が守秘義務を負っていること(弁護士法23条)や、社員等の権利保護のために必要があることから、秘密保持義務違反とはならないと解されています。

職場外の行為と企業秩序

会社によっては服務規律を定めており、当該服務規律とは、服務に関する規範を中心として、会社が社員に対して設定する就業規則上の行為規範をいいます。

もっとも、かかる服務規律は社員が職場で服するルールであり、職場外における社員の行為には及ばないのが原則です。ただし、例外的に、職場外の行為が職場における職務に重大な悪影響を及ぼす場合には、服務規律の効力が及び、会社は当該社員に対して懲戒その他の処分を行うことが可能となります。

具体的には、最高裁判例において、職場外での職務遂行に関係がない行為であっても、企業秩序に直接の関係を有するものや、評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については、企業秩序維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もあり得る、とされています(国鉄中国支社事件 最高裁昭和49年2月28日労判196号))。

では、例えば、会社に無断で兼業している社員に対して、懲戒解雇をすることはできるでしょうか。

実務上、「会社の許可なく他人に雇い入れられること」を就業規則において禁止し、その違反を懲戒事由としている会社は相当数あります。しかし、兼業も基本的には会社の労働契約上の権限の及ばない社員の私生活上の行為ですので、かかる兼業禁止規定やその適用の有効性が問題となります。

兼業禁止規定違反については、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の兼業は当該兼業禁止規定に抵触しない、とするとともに、そのような影響・支障のあるものは当該兼業禁止規定に抵触し、懲戒処分の対象になるものと解している裁判例もありますので、まずは労働諸法に詳しい弁護士にご相談ください。