サービス サービス別

労務・労働問題10業務管理

勤務成績不良社員への対応

まず、労働者たる社員は、使用者たる会社との労働契約に基づき、会社に対する労働義務を負います(労働契約法6条)。そのため、社員が債務の本旨に従って労務の提供を行わない場合には、労働義務を果たさなかったものとして会社に対する債務不履行となり、会社は労働契約を解約し、当該社員を解雇することが認められます。もっとも、会社による解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でなければ権利濫用として無効となることに注意が必要です(労働契約法16条)。

勤務成績不良社員への対応

では、債務の本誌に従った労務の提供はどのように判断するのでしょうか。職種を特定しない雇用における労務の提供について、最高裁は、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供がある」としています(片山組事件(最高裁平成10年4月9日労判736号))。
すなわち、判例上、社員の職務遂行能力は、当該社員が現在従事している業務だけでなく、配置可能な業務も基準に判断されることになります。
では、職務遂行能力は現在従事している業務だけでなく、配置可能な業務も基準に判断されるとして、いかなる程度の職務遂行能力不良であれば、社員を解雇することができるでしょうか。
裁判例では、以下の事情を考慮した上で、勤務成績・勤務態度の不良を理由とした解雇を無効としており、社員が現在配置された職場で業務上トラブルを生じていたとしても、それだけで直ちに債務の本旨に従った労務の提供がない、と判断し、解雇することは困難です。具体的な事実関係を把握し、本人への注意・指導、配置転換等、改善に向けた対応が求められます。

1.会社経営や運営に対する現実の支障・損害(又は重大な損害のおそれ)があり、会社から排除することが必要であること(排除の必要性)

2.注意したのに改善されない等、今後の改善の見込みがないこと(改善不能性)

3.会社側の不当な人事がなかったこと(公正な人事)

4.配転や降格の可能性(配転可能性)

不当に残業を拒否する社員

時間外労働の可否に関しては、法律上、会社は労働者に対して休憩時間を除き、1週間につき40時間、1日につき8時間を超えて労働させてはならないこととされています(労基法32条)。違反した場合、6ヶ月以内の懲役又は30万円以下の罰金に処されます(労基法119条1号)。

もっとも、法は、事業遂行上の必要性がある場合には一定限度で時間外労働、いわゆる残業を認めることとしており、以下の2つの要件を満たした場合には残業を命じることも許容されます(労基法36条)。

1.会社が労使協定(以下、「三六協定」といいます。)を締結し、これを行政官庁に届け出ること

2.労働契約上、時間外労働を義務づける根拠があること

上記の三六協定を締結するに際して、会社は労働組合等と書面による協定を行う必要があるところ、相手方となる労働組合等は、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」であることが必要です(労基法36条)。

また、三六協定においては、「時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者の数並びに1日及び1日を超える一定の期間について延長することができる時間又は労働させることができる休日」を定める必要があります(労基法規則16条1項)。かかる「具体的事由」としては、たとえば、「臨時の受注、納期変更等のため」、「機械、設備等の修繕、据付、掃除のため」、「当面の人員不足に対処するため」等が該当し、単に「業務の都合により残業を命ずることがある」といった記載では足りません。

三六協定を締結し届け出たとしても、それは時間外労働について基準違反の責任を問われない(刑事免責)というだけですので、会社が社員に対して残業命令をするためには、労働契約上、かかる残業命令権が会社に与えられていることが必要となります。

具体的には、就業規則や労働協約において、三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して社員を労働させることができる旨が定められており、当該就業規則等の内容が合理的なものであることが必要となります(日立製作所残業拒否事件(最高裁平成3年11月28日労判594号))。

三六協定を締結し届け出た上、就業規則等に時間外労働を義務づける根拠が規定されその内容が合理的な場合、不当に残業命令を拒否する社員は誠実労働義務違反となります。ただし、社員に残業を拒否する正当な理由があるにもかかわらずこれを命じることは権利濫用になりうることにご注意ください。

社員の服装等に対する制約

多くの会社では、「服務規律」と称される従業員の行為規範が就業規則等において定められています。この「服務規律」とは、労働者の服務上の規律、すなわち労働者の就業の仕方及び職場のあり方に関する規律をいい、その中心的内容の一つに服装規定も含められます。

判例は、社員がかかる服務規律を遵守する義務を負う根拠として、「一般に、使用者は、労働契約関係に基づいて企業秩序維持のために必要な措置を講ずる権能を持ち、他方、従業員は企業秩序を遵守すべき義務を負っている」(最高裁平成8年3月28日労判696号))と判示しています。
このように、会社は労働契約に基づき企業秩序を維持する権能を有し、社員はかかる企業秩序遵守義務を負い、服務規律に服することとなります。
かかる服務規律の一内容として、会社は社員に対して、服装・髪型等の容貌に関して会社の内規に従うよう求めることがあります。

もっとも、業秩序及びその遵守義務は、企業及び労働契約の性質そのものに根拠が求められることから、社員は企業及び労働契約の目的上必要な限りでのみ企業秩序に服し、企業の一般的な支配に服するものではありません。
具体的には、企業秩序において規定される規則や命令は、企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものであることを要し、事業場の風紀秩序を乱すおそれがないと認められる行為については企業秩序の違反は成立しません。

業務命令に従わない社員に対する処分

社員は、労働契約の合意内容の枠内で、会社に対して誠実に労務を提供する義務(誠実労働義務)を負います。したがって、社員が業務命令に従わない場合、誠実労働義務の不完全履行となり、就業規則上の懲戒事由に該当すれば懲戒処分の対象となり得ます。

もっとも、社員の誠実労働義務の前提として、上司の業務命令が労働契約の合意内容の枠内で、かつ、当該労働契約の内容が合理的なものであることが必要となります(電電公社帯広局事件 最高裁昭和61年3月13日労判470号)、国鉄鹿児島自動車営業所事件 最高裁平成5年6月11日労判632号))。

業務命令に従わない社員に対する処分

この点、社員が始末書の提出を拒否した事案において、裁判所は、そもそも始末書の提出命令は業務上の指示命令に該当しないこと等を理由に、懲戒解雇を無効とした裁判例があります。

また、就業規則等に業務命令に服すべき旨の定めがある場合であっても、具体的な命令が社員に対して著しい不利益を与える等の場合には、かかる業務命令は権利濫用として無効と判断される可能性があることにも注意が必要です(電電公社千代田丸事件(最高裁昭和43年12月24日労判74号、最高裁平成8年2月23日労判690号)。

以上のとおり、業務命令について就業規則等に定めがあり、当該内容が合理的なものである場合は、当該業務命令に違反した社員は懲戒処分の対象となり得ますが、その場合であっても懲戒解雇が認められるケースは裁判例上、非常に限定的な場合に限られているといえます。

業務命令に従わない社員に対する懲戒解雇を認めたケースとして、以下の裁判例があります。

管理能力に欠ける管理職に対する処分

管理職とは、労働現場において部下などを指揮して組織の運営を担当する者をいいますが、法律上定義されているものではなく、その範囲は会社の規模や種類等によって異なります(労基法41条2号「監督若しくは管理の地位にある者」ご参照)。

管理職が部下を指揮監督する能力に欠ける場合、誠実労働義務の不完全履行として、人事権による降格処分等が問題となります。

降格処分には、①人事権の行使による降格と、②懲戒処分としての降格の2種類に大別することができますが、管理職にある者が部下を適切に指揮監督する能力に欠け、誠実労働義務に違反している場合、就業規則に根拠規定がなくても①人事権の行使として裁量的判断により行うことができる、とされています。

管理職の部下を指揮監督する能力が著しく低く、職務懈怠等の就業規則上の懲戒事由に該当する場合には、人事権の行使としての降格処分に留まらず、懲戒処分としての降格を検討することになりますが、懲戒処分を行うにあたっては相当性が認められる必要があり、能力に欠けることを理由に懲戒解雇が認められるケースは、裁判例上、非常に限定的な場合に限られていることにご注意ください。

無断欠勤を繰り返す社員に対する処分

欠勤理由の合理性については、会社と社員との労働契約の内容を規律する就業規則等に照らして判断されるため、無断欠勤を懲戒事由として就業規則等に規定していない場合、合理的な理由のない無断欠勤であっても懲戒処分をすることができないと判断される可能性があります(最高裁平成15年10月10日労判861号)。

無断欠勤に対する懲戒処分について就業規則等に定めがあり、当該内容が合理的なものである場合は、合理的な理由なく無断欠勤を繰り返した社員は懲戒処分の対象となり得ますが、その場合であっても、当該社員に対して改善の機会を与えずにいきなり懲戒処分や解雇処分を行った場合、当該処分は懲戒権の濫用ないし解雇権の濫用として無効と判断される可能性があります(日本ヒューレット・パッカード事件 最高裁平成24年4月27日労判1055号))。

無断欠勤を繰り返す社員に対する処分

したがって、無断欠勤を繰り返す社員に対しては、まずは改善の機会を与えることとなりますが、たとえ無断欠勤が改善されなかったとしても、それで直ちに懲戒処分ないし解雇が認められるわけではなく、懲戒処分ないし解雇に「客観的に合理的な理由」が必要となることに注意が必要です(労働契約法15条、16条参照)。

よって、改善指導の効果が見られず、懲戒処分に踏み切る場合であっても、軽い処分から重い処分(懲戒解雇)へと段階的に移行していくことが大切です。

業務の遂行—会社内での喫煙

受動喫煙は健康に対する悪影響があるとされており、健康増進法25条において、「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。」と規定されています。

「努めなければならない」との文言から明らかなとおり、同条は努力義務を定めたものであり、法的拘束力はありませんが、実務上、会社も社内に置ける受動喫煙防止のための措置を講ずる努力義務を果たすことが求められています。

会社は社員に対して、労働契約に伴う付随義務として安全配慮義務を負っており、社員の職場における安全を確保する義務を負っています(労働契約法5条)。

もっとも、安全配慮義務違反が認定されるか否かは個別の事案に応じ、ケースバイケースであり、裁判例では、損害賠償請求が否定される場合が多いといえます。

会社が社員の受動喫煙防止のための措置をとらなかった場合、たとえ健康増進法上は努力義務であったとしても、何ら対策をとらないまま放置した場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性がないとはいえません。また、現在人手不足は深刻な状態であり、受動喫煙を原因として退社するリスクは回避すべきです。

そのため、まずは社内を禁煙としたうえで、社外に喫煙所を設ける等の対策を講じることがベターといえるでしょう。また、執務スペースでの喫煙を止めるべく、就業規則等に喫煙所以外での喫煙を禁止するとともに、違反した場合には懲戒処分の対象とすることを明記することで、社員による喫煙を防止することが可能となります。

勤務時間中のパソコン等の私的利用

社員は、労働契約の最も基本的な義務として、使用者である会社の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行すべき義務を有しており、労働時間中は職務に専念し他の私的活動を差し控える義務を有しています(職務専念義務)。

したがって、会社の許可なく、勤務時間中に業務と関係のないパソコンの私的利用やスマートフォンからSNSに投稿等をすることは職務専念義務に違反することとなります。

もっとも、就業規則等において勤務時間中のパソコン等の私的利用が禁止されており懲戒事由として規定されていたとしても、当該違反をもって直ちに懲戒解雇まで認められるわけではありません。勤務時間中のパソコン等の私的利用を禁止する就業規則に違反した場合の懲戒解雇の可否については個別具体的な事案に応じたケースバイケースでの判断となりますが、当該違反をもって直ちに懲戒解雇まで認められるわけではないことに留意が必要です。

なお、社員によるパソコン等の私的利用をモニタリングすべく、就業規則等においてあらかじめ会社によるモニタリングが可能である旨規定されている場合、社員にはもともと会社のパソコン等の利用についてプライバシー権が認められないため、会社は日常的に社員による会社のパソコン等の使用状況をモニタリングすることが可能です。

配転命令を拒否する社員への対応

「配転」とは、従業員の配置の変更であって、職内容又は勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものをいいます。このうち、同一勤務地(事業所)内の勤務箇所(所属部署)の変更のことを「配置転換」といい、勤務地の変更を「転勤」といいます。

実務上、かかる配転命令権は就業規則等における配転条項として、「業務の都合により出張、配置転換、転勤を命じることがある」等と規定されることが一般的です。

会社の社員に対する配転命令を根拠づけるのは労働契約上の職内容・勤務地の決定権限(配転命令権)ですが、かかる配転命令権はそれぞれの労働契約関係によって範囲が様々に決定されています。したがって、労働契約上、職種や職務内容、勤務場所が限定されている場合は、社員の同意なく職種変更の配転命令は認められないこととなります(職種限定契約)。

会社による配転命令権が認められる場合であっても、配転命令権は社員の利益に配慮して行使されるべきものであり、濫用されてはならないものと解されています。判例では、配転命令は業務上の必要性があって行われるべきものであり、また、本人の職業上・生活上の不利益に配慮して行われるべき、とされています。判例においては、転勤命令について、「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、…他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」は、権利濫用になる、と判断されています(東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日労判477号))。