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労務・労働問題5採用

求人時の注意点

求人情報に事実と異なる記載をすること

例えば、「基本給月額18万円、賞与支給」という求人情報を掲載しているのに、採用後、実際には「基本給を16万円しか支給しない」「賞与を支給しない」など事実と異なる記載は絶対に止めましょう。
特に、賃金は労働者が生活するための重要な労働条件です。期待して入社したのに実際は待遇が悪いという状況は、後日労使紛争が起きやすいパターンですので注意しましょう。また、賃金以外にも、「転勤なし」「残業なし」「職種変更なし」などと求人情報に掲載しておいて、採用後は転勤、残業、職種変更を命じたりする場合も問題となり得ます。
企業の中には、少しでも良い人材を獲得するために、待遇をよく見せたいと考える事業所もあるかもしれません。
しかし、トラブルを防止するために、重要なことは採用する労働者に待遇についての実際と異なる期待を抱かせないことです。

求人時の注意点

契約社員の募集

日本では、正社員として採用すると、解雇はよほどのことがないとできません。すなわち、労働契約法16条は、解雇について、客観的合理性、社会通念上の相当性という厳しい要件を求めています。しかし、企業はいつも業績が良いとは限りません。業績が悪化すれば、一定数の従業員を解雇せざるを得なくなります。
そのため、企業としては、いざというとき、ある程度余剰人員を切りやすいようにしておきたいと考えるのは当然です。
このような企業のニーズにある程度適合するのは契約社員です。
すなわち、契約期間に定めのある雇用形態(例えば、「契約期間1年間:更新有り」など)として、労働者を採用すれば、もし、業績が悪化した場合、更新しない(いわゆる「雇止め」)にすることで、労働力をある程度調整できます。
ただ、ここで注意しなければならいのは、契約社員として採用するのであれば、その旨労働条件通知書等できちんと明示しなければならないということです。
また、求める人材がパートタイマーであれば、契約社員の募集でも、更新可能性があることを明示すれば、優秀な人材が集まる可能性はあります。
企業としては、契約社員として採用するか、正社員として採用するか、十分に検討して求人を掲載すべきです。

個人情報への配慮

採用に際して取得した応募者の氏名、学歴、住所、電話番号等に関する情報は、個人情報として、法的保護の対象となります。
個人情報保護法では、使用者が個人情報取扱事業者に該当する場合、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、原則として、速やかに、その利用目的を本人に通知し、又は公表しなければなりません。

面接時の注意点

採用選考において、面接はほとんどの企業において実施される方法です。
面接における面接官と受験者のやり取りには、プライバシーに関する情報が多く存在します。
まず、注意しなければならいのは質問事項に関する法規制です。
厚生労働省がホームページで「公正な採用選考の基本」として、面接の際に尋ねてはいけないことを掲載しているので、紹介します。

<a.本人に責任のない事項の把握>

本籍・出生地に関すること(注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)

家族に関すること(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)

住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)

生活環境・家庭環境などに関すること

<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>

宗教に関すること

支持政党に関すること

人生観、生活信条に関すること

尊敬する人物に関すること

思想に関すること

労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること

購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

上記のうち、うっかり尋ねそうで特に注意が必要なのは、「尊敬する人物」でしょうか。
複数名の就職希望者を合わせて面接する集団面接は、以下のようなメリットがあるため選考に積極的に取り入れている企業もあります。

時間と労力を節約できる

他の就職希望者と比較できるため優劣がつけやすい

他の受験者が回答しているときの様子を観察できる

しかし、個別面接とは異なり、他の方に聞かれている状態です。そのため、個人情報への配慮が特に必要となります。
上記の質問禁止事項に留意することはもちろんですが、集団面接ではできるだけ個人情報の保護が問題となる得る質問は避けるべきでしょう。

内定の取り消し

内定の法的性質は、裁判例によれば、解約権留保付労働契約です。
しかし、内容内定通知書ないし誓約書に記載された取消事由に該当する事実があったとしても、裁判実務上、取消権の行使には制限があります。
判例(最判昭54.7.20)では、内定を取り消し得る場合について、以下のように判断しています。
「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる」
したがって、取消権の行使は、最終的には、①客観的合理性と②社会通念上相当性という要件を満たす必要があります。
もっとも、内定者の場合、いまだ就労を開始しておらず、その資質、能力その他社員としての適格性の有無に関連する事項が十分に収集されていません。
ですので、内定者と、継続的に就労してきた従業員とを同列に論じることはできないと考えるのが相当であり、採用内定の取消しの場合は、解雇と比べてより緩やかに解釈すべきだと考えます。

労働条件通知書

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を書面などで明示しなければなりません(労基法15条1項)。
以下、書面交付が必要なものと口頭で足りるものをまとめました。

労働条件通知書

<書面交付が必要なもの>

(ア)労働契約の期間

(イ)有期労働契約を更新する場合の基準

(ウ)就業の場所・従事する業務の内容

(エ)始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項

(オ)賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項

(カ)退職に関する事項(解雇の事由を含む)

※労働条件の明示義務に違反した場合は30万円以下の罰金が法定刑となっていますのでご注意ください(労基法120条1号)。

<口頭で足りるもの>

(キ)昇給に関する事項

(ク)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払の時期に関する事項

(ケ)臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項

(コ)労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項

(サ)安全・衛生に関する事項

(シ)職業訓練に関する事項

(ス)災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項

(セ)表彰、制裁に関する事項

以下、各項目についての注意点を挙げておきます。

【就業の場所】
就業場所が固定されていると、転勤命令に対して、「勤務地限定の雇用である」と反論されるリスクがあります。
したがって、将来、転勤の可能性があるようであれば、就業場所が変更となる可能性があることを明示すべきです。

【業務の内容】
業務内容については、会社の業績、経営戦略その他業務の都合、従業員の適正、資質等によって、変更となる可能性がありますので、業務内容が変更となる可能性があることを明示すべきです。

【始業・終業の時刻、休憩時間】
業務の都合によって変更する可能性があるようであれば、明示しておくべきです。

【休日】
業務の都合によって変更する可能性があるようであれば、明示しておくべきです。

【昇給】
具体的な額を明示していなければ、具体的請求権まではないと考えられますが、トラブル防止の観点からは、「昇給なし」とするか、「昇給することがある」などと定めた方がよいでしょう。

【試用期間】
求人情報を掲載したり、雇入れのときに労働条件を通知したりする際、試用期間を定めることが一般的です。
通常、3か月から6か月程度の試用期間があり、その間に使用者により労働者の資質、性格、能力などについて実験・観察が行われます。そして、期間満了時に本採用に適していると判定されてようやく確定的な採用となります。
このような試用期間の設定は、ミスマッチを防ぐために、使用者側だけでなく、労働者側にも有用だと思います。
しかし、使用者側は、文言どおり、「お試し期間であって能力不足等の問題があれば正式採用しなくても問題ない」と捉えていることが多いですが、試用期間満了時の解雇について、裁判実務は企業側に厳しい傾向です。
すなわち、最高裁(最判昭和48.12.12)は、試用期間の法的性質について、「不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権が留保されている」としつつ、その留保解約権の行使は、「解約留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」と判示しています。
したがって、裁判実務では、試用期間満了時の解雇であっても、客観的合理性と社会通念上の相当性という要件を満たさなければ、解雇は無効となります。
この点、上記の最高裁は、「留保権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の事由が認められてしかるべき」と判示していることから、試用期間満了時の解雇は、通常の解雇よりも、多少は解雇しやすいかもしれません。
しかし、多くの企業経営者が考えているほど試用期間満了時の解雇は簡単ではないといえますのでご注意ください。 

【無期転換申込権】
「期間の定めあり」として、雇用契約の期間を有期とする場合、無期転換申込権に注意する必要があります。
労働契約法18条1項は、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合、労働者が使用者に対して当該有期労働契約満了日までに無期労働契約の締結の申込みをすれば、使用者はその労働者の申込みを承諾したものとみなすと規定しています。
つまり、これまでの契約期間が5年を超える有期労働者から使用者に対して、無期労働契約への転換の申出があった場合、無期労働契約が成立するということです。
したがって、企業としては、契約社員を採用する場合、雇入れから5年が経過すると、問答無用で無期労働契約に転換されるということを念頭に置いて、採用を考えなければなりません。

また、5年経過前の雇止め(契約を更新しない)であっても、雇止めが無効となることがあります。
この点、平成19年に成立した労働契約者法19条は雇止めについて以下のとおり規定しています。
(有期労働契約の更新等)

第19条:有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
①当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
②当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

したがって、使用者がまだ5年も先の話だからと安易に考え、それに基づいて更新を不用意に続けていると、有期労働契約者との契約を終了させることができないことになり、最終的には労働者に無期転換申込権を行使されるという結果になる危険性がありますので、ご注意ください。

雇用契約書

労働者保護の観点から、労働基準法上、労働者に対して、法律所定の労働条件を明示する義務がありますが、雇用契約書を取り交わす義務はありません。
しかし、トラブル防止の観点からは、企業側はできるだけ雇用契約書を作成すべきだと考えます。
雇用契約書は、使用者、労働者の双方が契約内容について、署名押印を行うものです。したがって、雇用契約書は使用者と労働者との合意内容を証明するものとなるので、労働条件に関するトラブルの未然防止に資する効果があります。
雇用契約書の中身については、前述した労働条件通知書と同じ点について注意する必要があります。

身元保証契約

企業としては、パワハラ・セクハラ等のハラスメント行為、企業や個人情報の漏洩など問題行動によって損害が生じた場合、直接的には当該労働者が不法行為責任等を負い、賠償義務があります。
しかし、企業の損害が多額に上ることが多く、労働者個人には十分な賠償能力がない場合が多いです。
このような場合に備えて、担保する役割を果たしてくれるのが「身元保証契約」です。
これは、労働者を雇用する際、その家族等に労働者の損害賠償義務を保証してもらう契約です。

身元保証契約

身元保証契約の注意点

①有効期間が限定されている

身元保証契約は、期間を定めず締結した場合、有効期間は成立の日より3年間です
また、期間を定める場合、5年を超えることはできません。
例えば、10年と定めても、5年に短縮されます(身元保証契約法2条)。
さらに、身元保証契約は、更新することができますが、その期間は、更新のときより5年を超えることはできません。

②通知義務がある

使用者は、以下に該当する場合、身元保証人に通知する義務があります。

労働者に業務上不適任または不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任の問題を引き起こすおそれがあることを知ったとき

労働者の任務または任地を変更し、このために身元保証人の責任を加えて重くし、またはその監督を困難にするとき

③契約解除ができる場合

身元保証人は、上記の通知を受けたときは、将来に向けて契約の解除をすることができます。まら、身元保証人自らが、上記の事実があることを知ったときも解除可能です。

④賠償額の制限

裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるとき、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をするに至った事由及びそれをするときにした注意の程度、被用者の任務または身上の変化その他一切の事情を考慮して、賠償額を決定します。