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労務・労働問題2賃金
「退職した従業員から残業代を請求されました。どうしたらいいでしょうか!?」
最近では、このような相談が非常に多くあります。
残業代請求事例は、退職した従業員から請求される場合が多く、事前に労働基準監督署や弁護士等に相談をしている場合があります。
相手の要求を無視すると、労働基準監督署からの出頭要求書が会社に届いたり、全従業員について「残業代の未払い」を命じられる可能性もあります。 また、相手の弁護士から労働審判を申し立てられたり、民事裁判を提起されたりすることもあります。
とはいえ,相手の要求を全面的に認めて、応じる必要はまったくありません。
相手の残業代請求は、不必要な時間外労働が含まれている、残業代の計算を適切に行っていない、等の不当な残業代請求であることも多いからです。
労働諸法に精通した弁護士であれば、適切な残業代を算出した上で、不当な要求をする相手に対して十分な反論をいたします。また、労働基準監督署に対しても、弁護士に依頼していると伝えることで、行政処分等を回避することも期待できますので,まずは弁護士に相談ください。
残業代請求を防止する手段
不必要な残業を未然に防止するための具体的な手段についていくつかご紹介します。
変形労働時間制の導入
労働時間は1日8時間、週40時間以下と決められていて、これを超える時間を労働させる場合は、時間外労働となるのが原則です。時間外労働になれば当然時間外手当の問題が生じてきます。
しかし、業態によっては、上記法定労働時間が業務にそぐわない場合があります。
例えば、1ヶ月のうち、後半は忙しいが前半はほとんど仕事がないくらい暇だとか、あるいは1年のうち夏は忙しいけど冬は暇だとかいう業種です。
このような場合、変形労働時間制を採用することで、法定労働時間を超えて就業させることができます。
1か月単位の変形労働時間制
これは、1か月以内の一定期間(例えば、1週でも4週でも構わない)を平均し、法定労働時間(1週間で40時間以下)に収めれば、特定の日や週について、法定労働時間を超えて労働させることができる制度のことをいいます。
例えば、トラック運転手、工場で交代制により勤務する者などの労働時間管理に適した制度といえます。
この制度を導入するためには、就業規則に定めるか、または労使協定を締結して労働基準監督署長に届出をしなければなりません(労基法32条の2)。
ただし、労使協定にしろ、就業規則にしろ、単位期間内のどの週ないしどの日に法定労働時間(40時間ないし8時間)を何時間超えるかをも特定しなければなりません(「特定の週」「特定の日」の要件)。
せっかく変形労働時間制を導入しても、この特定の要件を満たしていなければ、後日、紛争となった場合に無効なものと判断され、法定労働時間を超えた労働時間については、残業代の支払が命ぜられることになります。
したがって、変形労働時間制を採用する際は、労働諸法に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
1年単位の変形労働時間制
これは、1年以内の一定期間を平均して1週間の労働時間を40時間以内に収めれば、特定の日や週が法定労働時間を超えても時間外労働にならないとするものです。
この制度は、業務の性質上、季節的繁閑のある事業所、例えば、観光関連事業等において導入すると大きなメリットとなるでしょう。
また、この1年単位の変形労働時間制を採用する場合、1か月単位の変形労働時間制を採用する場合と異なり、必ず労使協定を締結して、労働基準監督署長に届出をしなければなりません。
また、常時10人以上を使用する事業場においては、始業・終業時刻を就業規則において特定することを義務づけられているので(労基法89条1号)、就業規則においても、労働時間を特定しなければならず、労使協定と就業規則の両方が必要となります。
1週間単位の非変形労働時間制
これは、業務の繁閑の激しい零細規模のサービス業、具体的には、常時30人未満の労働者を使用する小売業、旅館、料理店、飲食店の場合のみ対象となります(労基法32条の5,労基則12条の5)。
この変形労働時間制も労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必要となります。
なお、常時10人以上を使用する事業場においては、始業・終業時刻を就業規則において特定することを義務づけられているので(労基法89条1号)、就業規則においても、労働時間を特定しなければなりません。
毎日の労働時間がまったく不確定であれば労働者の生活が不安定となるため、1週間の各日の労働時間をあらかじめ労働者に通知しなければなりません(労基法32条の5第2項)。
この制度を採れば、使用者は1週間40時間の枠内において、1日について10時間まで労働させることができます。
残業代を月額賃金の中に含ませる(定額残業制)
毎月の残業代計算が煩雑であるので残業代を定額としたい場合、法所定の割増賃金に代えて一定額の手当を支払う制度です。
この定額残業制については、次の要件を満たす必要があると考えられます。
①通常の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分が明確に区別できること
②見込みとなる時間を超えるときは、不足分を支払う合意がなされていること
定額残業制を実際に導入する場合は、給与の中に残業を何時間分含めているか、そして、含められている残業時間を超えて働いたときは、残業代を別途支払う旨就業規則・雇入通知書に記載しておくべきです。
この点をしっかりと押さえていないと、後々残業代を請求された場合、不必要な残業代を支払うことになります。
そのような事態を防止するために、就業規則等には次のような記載が考えられます。
<記載例>
賃金は次のとおりとする。
月給40万円(42時間分の時間外手当9万8448円を含む。)
ただし、残業時間が月42時間を超えた場合、別途時間外手当を支払うものとする。
事業場外のみなし労働時間制の導入
従業員が事業場外で業務に従事している場合で、労働時間を算定しにくいときに所定労働時間だけ労働したものとみなす制度です(労基法38条の2)。
事業場外のみなし労働時間制は、外勤営業職員などの常態的な事業場外労働だけでなく、出張等の臨時的な事業場外労働も対象となります。また、労働時間の全部を事業場外で労働する場合だけでなく、その一部を事業場外で労働する場合も含みます。
この制度を導入するには、就業規則にその旨を定める必要があります。
また、この「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」が法定労働時間(1日8時間)を超える場合には、その協定届を労働基準監督署に届け出なければなりません。
この場合には、いわゆる36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければならないことに注意してください。
また、この制度は、「労働時間を算定しがたいとき」に限定されます。
導入するには、当該事業場外労働が「会社から具体的な指揮命令を受けていない」ことが必要となります。具体的には、携帯電話で上司から指揮命令を受けている場合などは、該当しないと判断されます。
裁量労働制(専門業務型・企画業務型)の導入
一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について、遂行の手段・時間配分の決定等を労働者の裁量に委ね、労働時間については「みなし労働時間」を定めて労働時間を算定する制度です。
この裁量労働制には、以下の2種類があります(労基法38条の3、38条の4)。
1.専門業務型裁量制
これは、以下の19の対象業務に導入できます。
(1)新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2)情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
(3)新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
(4)衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5)放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6)広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
(7)事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
(8)建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
(9)ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10)有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
(11)金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12)学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13)公認会計士の業務
(14)弁護士の業務
(15)建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16)不動産鑑定士の業務
(17)弁理士の業務
(18)税理士の業務
(19)中小企業診断士の業務
制度の導入に当たっては、原則として次の事項を労使協定により定めた上で、労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
(1)制度の対象とする業務
(2)対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
(3)労働時間としてみなす時間
(4)対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
(5)対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
(6)協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
(7)(4)及び(5)に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
2.企画業務型裁量労働制
事業運営に関する企画・立案等の業務を自らの裁量で行う従業員を対象とした制度です。
専門業務型裁量労働制と同じように、対象者は実際の労働時間が何時間であろうと、あらかじめ決められた時間(たとえば7時間)労働したものとみなすことができます。
これは、次のような業務が対象となります。
経営企画担当部署
経営状態・経営環境について調査および分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
人事/労務担当部署
現行の人事制度の問題点やそのあり方等について調査および分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
財務/経理担当部署
財務状態等について調査および分析を行い、財務に関する計画を作成する業務
広報担当部署
効果的な広報手段等について調査および分析を行い、広報を企画・立案する業務
営業企画担当部署
営業成績や営業活動上の問題点等について調査および分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
対象業務となり得ない業務には次のようなものがあります。
経営に関する会議の庶務等の業務
人事記録の作成および保管、給与の計算および支払、各種保険の加入および脱退、採用・研修の実施等の業務
金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成および保管、租税の申告および納付、予算・決算に係る計算等の業務
広報誌の現行の校正等の業務
個別の営業活動の業務
個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務
企画業務型裁量労働制は残業代対策として有効ですが、厳しい規制がありますので、労働法に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
振替休日の利用
本来、休日出勤の場合、休日割増手当(法定休日の場合3割5分増し)を払わなければなりませんが、休日の振替措置(振替休日)を行うことで、この割増賃金を支払う必要はなくなります。
ただし、以下の要件をみたす必要があります。
①就業規則等で休日の振替措置をとる旨を定める
②休日を振り替える前に、あらかじめ振替日を決めておく
③法定休日(毎週1回以上)が確保されるように振り替えること
この要件のどれかが欠ければ、それは振替休日ではなく、「代休」になってしまいますので、ご注意ください(「休日労働」の割増賃金35%を支払う必要があります)。
週休1日制の場合、休日を別の週に振替えると法定休日が確保できないため、「休日労働」になってしまいます。
週休2日制の場合は、出勤日と同じ週に振替休日を取れずとも1日の法定休日が確保されていれば「休日労働」は発生しません。